・・・ 女は無言のまま、膝の上のプログラムを私に渡してくれた。が、それにはどこを探しても、『影』と云う標題は見当らなかった。「するとおれは夢を見ていたのかな。それにしても眠った覚えのないのは妙じゃないか。おまけにその『影』と云うのが妙な写・・・ 芥川竜之介 「影」
・・・また実際音曲にも踊にも興味のない私は、云わば妻のために行ったようなものでございますから、プログラムの大半は徒に私の退屈を増させるばかりでございました。従って、申上げようと思ったと致しましても、全然その材料を欠いているような始末でございます。・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・よくあることではじめは気にならなかったが、プログラムが終わりに近づいてゆくにつれてそれはだんだん顕著になって来た。明らかに今夜は変だと私は思った。私は疲れていたのだろうか? そうではなかった。心は緊張し過ぎるほど緊張していた。一つの曲目が終・・・ 梶井基次郎 「器楽的幻覚」
・・・ そんなプログラムで、晩く家へ帰った。 病気 姉が病気になった。脾腹が痛む、そして高い熱が出る。峻は腸チブスではないかと思った。枕元で兄が「医者さんを呼びに遣ろうかな」と言っている。「まあよろしいわな・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・兵である事、そうしてたったいま帰還して、昨夜この港町に着いて、彼の故郷はこの港町から三里ほど歩いて行かなければならぬ寒村であるから、ここで一休みして、夜が明けたらすぐに故郷の生家に向って出発するというプログラムになっているらしい事、二人は昨・・・ 太宰治 「母」
・・・後で物言いがあったということをプログラムで読んでやっぱりそうかと思った。 三 別れの曲 ショパンがパリのサロンに集まった名流の前で初演奏をしようとする直前に、祖国革命戦突発の飛報を受取る。そうして激昂する心を抑えて・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・これは偶然なのか、それともプログラム編成者の皮肉なのか不明である。 凡児が父の「のんきなトーさん」と「隣の大将」とを上野駅で迎える場面は、どうも少し灰汁が強すぎてあまり愉快でない。しかし、マダムもろ子の家の応接間で堅くなっていると前面の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・映画の内容のモンタージュが問題となるように、見るべき映画のプログラムのモンタージュもやはり問題になるようである。 ともかくも「人生の歌」には理知的興味が勝っているので、そういうものを要求する観客にはおもしろいかもしれない。そういう観客に・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
フィッシンガー作「踊る線条」と題するよほど変わった映画の試写をするからぜひ見に来ないかとI氏から勧められるままに多少の好奇心に促されて見に行った。プログラムを見ると、第五番「アメリカのフォクストロット」。第八番、デューカー・・・ 寺田寅彦 「踊る線条」
・・・ 管絃のプログラムが終ると、しばらくの休憩の後に舞楽が始まった。 一番目は「賀殿」というのであった。同じ衣装をつけた舞人が四人出て、同じような舞をまうのであるが、これもちょうど管弦楽と全く同じようにやはり一種の雰囲気を醸出する「運動・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
出典:青空文庫