・・・そこで、正月の松の内に、五、六人の友人と一隻のポンポン船で遠征し、寒さでみんなカゼを引いてしまった。しかも、河豚は二匹しか釣れず、その一匹を私がせしめたというわけである。多分、腕よりも偶然だったのであろう。エビのエサを使って、深い海底に、オ・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・とのさまがえるは、よろこんで、にこにこにこにこ笑って、棒を取り直し、片っぱしからあまがえるの緑色の頭をポンポンポンポンたたきつけました。さあ、大へん、みんな、「あ痛っ、あ痛っ。誰だい。」なんて云いながら目をさまして、しばらくきょろきょろ・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・たちまち空で白いけむりが起り、ポンポンと音が下って来それから青い柳のけむりが垂れ、その間を燕の形の黒いものが、ぐるぐる縫って進みました。「さあ式場へ参りましょう。お前たち此処で番をしておいで。」陳氏は英語で云って、それから私らは、その二・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・そして麦束はポンポン叩かれたと思うと、もうみんな粒が落ちていました。麦稈は青いほのおをあげてめらめらと燃え、あとには黄色な麦粒の小山が残りました。みんなはいつの間にかそれを摺臼にかけていました。大きな唐箕がもう据えつけられてフウフウフウと廻・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・ 中腰になって部屋の角へ、外套だの、ネルの襟巻だのをポンポン落してから、長火鉢の方へよって来た栄蔵はいつもよりは明るい調子で物を云った。「まだ何ともきまらん。 けど、奥はんが大層同情して、けっとどうぞしてやるさかいに又明日来・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・俺はいやだ、って…… ミーチャは手に持ってた針金の束でポンポン自分の脛をたたいた。 ――じゃ何かい、フェージャは……馬鹿らしい! お前達んところにはこうやってちゃんと独立した室があって、職業があって、しかも工場にあんないいヤースリが・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
出典:青空文庫