・・・まだ、あまりメロンなどを見なかった頃で、この種のものに、より良い種のあることなど知らなかったのでした。これにつけて、忘れ難きは、四万八千日の日に、祖母は、毎年のごとく、頭痛持ちの私にお加持をしてもらうべくお寺へつれて行ったのでありますが、そ・・・ 小川未明 「果物の幻想」
おかあさんが、れいぞうきの ふたを おあけなさると、いい においが しました。「二郎ちゃん、メロンが つめたく なって いますよ。にいさんが かえったら、きって あげましょうね。」と おっしゃいました。 二郎さんは じぶん・・・ 小川未明 「つめたい メロン」
・・・や「デカメロン」を以てはじまる小説本来の面白さがあったとでもいうのか。脂っこい小説に飽いてお茶漬け小説でも書きたくなったというほど、日本の文学は栄養過多であろうか。 正倉院の御物が公開されると、何十万という人間が猫も杓子も満員の汽車・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・外国でも遠くはデカメロンあたりから発して、近世では、メリメ、モオパスサン、ドオデエ、チェホフなんて、まあいろいろあるだろうが、日本では殊にこの技術が昔から発達していた国で、何々物語というもののほとんど全部がそれであったし、また近世では西鶴な・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・かの国の有名な画廊にある名画の複製や、アラビアンナイトとデカメロンの豪華版や、愛書家の涎を流しそうな、芸術のための芸術と思われる書物が並んでいて、これにはちょっと意外な感じもした。そのほかになかなか美しい人形や小箱なども陳列してあったが、い・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・ 家を建てようと思う人が自分の素人設計図を見せてまずい所を直してもらったり、ちょっとした器械でも買う場合に目的を話して適当なものを選定してもらわれれば好都合である。メロンを作ってみたいと思う人が自分の畑の適否を相談し、栽培法の要領を教わ・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・「デカメロン」の本質はそういうものであった。 十九世紀の目ざましい科学の進歩は、人間の幸福について、それを可能にしまた不可能にする社会の条件を考慮に入れるべきことを知らせた。これは社会的に生きる人類の幸福を問題とする現実的な幸福探求の道・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・涼しい夏の夜を白服の給仕が、食器棚の鏡にメロンが映っている前に、閑散そうに佇んでいる。「――寂しいわね、ホテルも、これでは」「――第一、これが」 友達は、自分の前にある皿を眼で示した。「ちっとも美味しくありゃしない。――滑稽・・・ 宮本百合子 「三鞭酒」
・・・ 智識階級の二十―三十代 リーベ すきな人 倉知の俊が農園でつかう ヤ、こいつはデカ・メロンだ、でかいメロンだ。 ○ケイオーの学生「あいつ赤電のくせに悠々し・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ シェリイを注ぐ。メロンが出る。二人の客に三人の給仕が附ききりである。渡辺は「給仕のにぎやかなのをご覧」と附け加えた。「あまり気がきかないようね。愛宕山もやっぱりそうだわ」肘を張るようにして、メロンの肉をはがして食べながらいう。・・・ 森鴎外 「普請中」
出典:青空文庫