・・・大きいリボンをした少女が一人、右手に並んだ窓の一つから突然小さい顔を出した。どの窓かははっきり覚えていない。しかし大体三日月の下の窓だったことだけは確かである。少女は顔を出したと思うと、さらにその顔をこちらへ向けた。それから――遠目にも愛く・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・砂浜の上には青いものが一すじ、リボンほどの幅にゆらめいていた。それはどうしても海の色が陽炎に映っているらしかった。が、その外には砂浜にある船の影も何も見えなかった。「あれを蜃気楼と云うんですかね?」 K君は顋を砂だらけにしたなり、失・・・ 芥川竜之介 「蜃気楼」
・・・家々の窓からは花輪や国旗やリボンやが風にひるがえって愉快な音楽の声で町中がどよめきわたります。燕はちょこなんと王子の肩にすわって、今馬車が来たとか今小児が万歳をやっているとか、美しい着物の坊様が見えたとか、背の高い武士が歩いて来るとか、詩人・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・赤革の靴を穿き、あまつさえ、リボンでも飾った状に赤木綿の蔽を掛け、赤い切で、みしと包んだヘルメット帽を目深に被った。…… 頤骨が尖り、頬がこけ、無性髯がざらざらと疎く黄味を帯び、その蒼黒い面色の、鈎鼻が尖って、ツンと隆く、小鼻ばかり光沢・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・……麦藁に巻いた切だったろうか、それともリボンかしら。色は判然覚えているけど、……お待ちよ、――とこうだから。……」 取って着けたような喫み方だから、見ると、ものものしいまでに、打傾いて一口吸って、「……年紀は、そうさね、七歳か六歳・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・緑の焔はリボンのようで、黄色い焔は宮殿のようであった。けれども、私はおしまいに牛乳のような純白な焔を見たとき、ほとんど我を忘却した。「おや、この子はまたおしっこ。おしっこをたれるたんびに、この子はわなわなふるえる。」誰かがそう呟いたのを覚え・・・ 太宰治 「玩具」
・・・いいえ、お逢いしたことは無いのでございますが、私が、その五、六日まえ、妹の箪笥をそっと整理して、その折に、ひとつの引き出しの奥底に、一束の手紙が、緑のリボンできっちり結ばれて隠されて在るのを発見いたし、いけないことでしょうけれども、リボンを・・・ 太宰治 「葉桜と魔笛」
・・・鶯色のリボン、繻珍の鼻緒、おろし立ての白足袋、それを見ると、もうその胸はなんとなくときめいて、そのくせどうのこうのと言うのでもないが、ただ嬉しく、そわそわして、その先へ追い越すのがなんだか惜しいような気がする様子である。男はこの女を既に見知・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・ 西洋でいつのころから今のようなステッキが行なわれだしたものか知らないが、ロココの時代には貴婦人がたがリボン付きの長い杖をついている絵がある。またそのころのやさ男が粉をふりかけた鬘のしっぽをリボンで結んで、細身のステッキを小脇にかかえ込・・・ 寺田寅彦 「ステッキ」
・・・たいそう古くなったお菓子を黄色いリボンで縛ったのが一箱あって、これもつるすのだといって、樅の木へほかの飾り物といっしょにつるしました。これは十四年前におばあさんが買ったお菓子だということでした。同じ宿にいる女優のスタルク嬢も、前だれなどかけ・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
出典:青空文庫