・・・この間に立って論難批評したり新脚本を書いたりするはルーテルが法王の御教書を焼くと同一の勇気を要する。『桐一葉』は勿論『書生気質』のようなものではない。中々面白い。花見の夢の場、奴の槍踊の処は坪内君でなくてアレほど面白く書くものは外にあるまい・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・「オルムスの大会で王侯の威武に屈しなかったルーテルの胆は喰いたく思わない、彼が十九歳の時学友アレキシスの雷死を眼前に視て死そのものの秘義に驚いたその心こそ僕の欲するところであります。「勝手に驚けと言われました綿貫君は。勝手に驚けとは・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
一 予言者のふたつの資格 日蓮を理解するには予言者としての視角を離れてはならない。キリストがそうであったように、ルーテルがそうであったように、またニイチェがそうであったように、彼は時代の予言者であった。普通・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・「ルー、ルルル。……」 イワンは、うしろの馭者に何か合図をした。 大隊長は、肥り肉の身体に血液がありあまっている男であった。ハムとべーコンを食って作った血だ。「ええと、三百円のうち……」彼は、受取ったすぐ、その晩――つまり昨・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・この点においてこの映画の創作者ルーバン・マムーリアンは一つの道楽をしてひとりで悦に入っている感がある。しかしまた一面においては常設館の常顧客であるところの大衆の期待に応ずるような手ごろの材料をかなりに盛りだくさんにあんばいすることに骨を折っ・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
ユーゴーは『哀史』の一節にウォータールーの戦いを叙してこう云っている。「もし一八一五年六月十七日の晩に雨が降らなかったら、ヨーロッパの未来は変っただろう」と。雨が降って地面が柔らかくなり、ナポレオンが力と頼む砲兵の活動に不・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・尤もその前に一枚のルーブリの形をした信用状が彼のかくしに這入っていたのであったと記憶する。ドーヴァへ渡ったときは「エネシング、トゥ、デクレアー」と聞かれ「ノー」と答えた、ただそれだけであった。パリのガール・デュ・ノールでは誰だか知らない人が・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・ ソビエト政府はこれらの学術的探険のために五百五十万ルーブリを投じたそうである。東洋の学術国日本の政府が学術のために現にどれだけの金を出しているかが知りたいものである。 新聞で見るとソビエトの五か年計画の一つとしてハバロフスクに百三・・・ 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
・・・また少し極端な例を仮想してみるとすれば、たとえばフランスでナポレオンの記念祭に大統領が演説したりする際に、もしも本物のナポレオンの声や、ウォータールーの砲声や、セントヘレナの波の音のレコードが適当に插入されたとしたら、それは実に不思議な印象・・・ 寺田寅彦 「ラジオ・モンタージュ」
・・・ 三ルーブリ十カペイキ。正餐二人前。 ひどくやすくなっている。一九二七年の十二月頃、行きのシベリア鉄道の食堂ではやっぱり三皿の正餐が一人前二ルーブリ半した。今度は三十カペイキの鉱水ナルザンが一瓶あって、この価だ。おまけに、スープに肉・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
出典:青空文庫