・・・庭の隅の金網の中には白いレグホン種の鶏が何羽も静かに歩いていた。それから又僕の足もとには黒犬も一匹横になっていた。僕は誰にもわからない疑問を解こうとあせりながら、とにかく外見だけは冷やかに妻の母や弟と世間話をした。「静かですね、ここへ来・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・常に春の如く、かなり広い庭は、ことごとく打ちたがやされて畑になってはいるが、この主人、ただの興覚めの実利主義者とかいうものとは事ちがい、畑のぐるりに四季の草花や樹の花を品よく咲かせ、庭の隅の鶏舎の白色レグホンが、卵を産む度に家中に歓声が挙り・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・ 何となし、すきまだらけの景色の中に、運動場つきの小屋の中で菜をたべて居るレグホンの真白い体と、火の様な「とさか」が抜け出して美くしい。 鳥をねらって来る野良猫が、足をどろだらけにして、尾をすぼめてノソノソといやな眼をして通って行く・・・ 宮本百合子 「霜柱」
・・・真黒いミノルカとレグホンが六七羽のんきにブラついて居る。中を一寸のぞいたけれ共人影が見えないので誰かにきいて見ようと思って又牛舎の方へ行きかけると、裏の方から、主婦が出て来た。「まあいらっしゃいまし。よっぽどお寒うございますねえ、お・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫