・・・春の頃は空の植木鉢だの培養土だのがしかし呑気に雑然ころがっていた古風な大納屋が、今見れば米俵が軋む程積みあげられた貯蔵所になっていて、そこから若い棕梠の葉を折りしいてトロッコのレールが敷かれている。台の下に四輪車のついたものが精米をやってい・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・もし、あのとき、あんなに砂糖の害悪だけを主張したことが科学の真実なら、主食代りに砂糖をなめさせることは余りひとをばかにしたことではないだろうか。レールをとりかえる金さえないのに、害悪があるという砂糖を、何の義理で買いこまなくてはならないとい・・・ 宮本百合子 「砂糖・健忘症」
・・・彼女の体に響いているレールの継ぎ目一つ一つはかつて「十月」、たとえばナターリアの小さい行跡が記録されないと同じく記録されない革命的プロレタリアートの行跡によって獲得されたものであることを。ペテログラードはレーニングラードに変った。そこにやは・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ ○列車の速力は、二十二秒半にこすレールのつぎめの数が時数。 ドイツに Wanderlied の多いこと Faust でさえ、一種のヴァンデルリードではないか。 ドイツ人の心持。 イギリス人にない。 日本人は? ・・・ 宮本百合子 「一九二三年夏」
・・・それから国男はすぐ汽車を出、レールにつかまって第二のゆり返しをすごす。それから鎌倉の方に行くものを誘い、歩いて、トンネルくずれ、海岸橋陥落のため山の方から行く。近くに行くと、釣ぼりの夫婦がぼんやりして居る。つなみに家をさらわれてしまったのだ・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ いつしかレールは左右に幾条も現れ、汽車は高みを走って、低いところに、混雑して黒っぽい町並が見下せた。コールターで無様に塗ったトタン屋根の工場、工場、工場とあると思うと、一種異様な屑物が山積した空地。水たまり。煤をかぶった狭い不規則な地・・・ 宮本百合子 「東京へ近づく一時間」
・・・ペレールによって左右田喜一郎の話 ペレールへ泊った。 十月二十四日 親たち帰国、 十月八日 おきると雨雨ね、おとうさま――ああ。だまっているんだ。また問題がおこるから。十時の汽車に父・・・ 宮本百合子 「「道標」創作メモ」
・・・暫く行くと草に埋もれて、複線のレールが古びている。これは又何故か? 私は不思議に思った。すべてのものを役に立てるソヴェト同盟の労働者がどうしてレールを腐らしているのだろう? ドミトロフ君のその時の答えは、今日も猶つよく私の心にのこってい・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・ 白い汽車の煙と、轟音と、稚い唱歌の節が五月の青空に浮んで、消えて、再びレールが車輪の下で鳴った。 稲毛の停車場から海岸まで彼等は田舎道を歩いた。余り人通りもなかった。二つの影が落ちる。道は白く乾いて右手に麦畑がある。尾世川は麦の葉・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・ つよさは底入れとなれ 敏感に――だがすぐかたづけるな 親父の薄はかさはここだ○大衆的活動へのうつりかわり 重く、やっこらとトロッコを別のレールにのせるような努力。・・・ 宮本百合子 「無題(九)」
出典:青空文庫