・・・あの辺の自然はおう揚で規模の壮大な野放しの美に充ちているから、その位のありふれたロマンスでもきっとそうこせこせ極りわるい思いをさせずに存在させたでしょう。しかし、何という私はおばあさんに縁の深い人間だろう、私の拍子木に答えて来るのは、おばあ・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・テラス、ロマンス類が、もとの軍情報部に働いていた人をやとい入れて、戦時秘史だの反民主的な雰囲気を匂わせはじめると、その風潮は無差別にぱっとひろがって二・二六事件記事の合理化された更生から文学にまで波及し「軍艦大和」のように問題となる作品をう・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・さもなければ、どうして組織された労働者が、組合図書には民主的出版物を買い入れるけれども、自分の小遣でこっそり個人的にロマンスだの何だのというものを買ってよむというようなことが起るでしょう。 よい文学上の仕事をしたいというひとすじの真剣な・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・という美しくもの凄いロマンスは十六世紀のイタリヤ法王領内で起った悲劇であった。これらの中世のおそろしい情熱の物語、情熱の悲劇は、当時絶対の父権――天主・父・夫の権力のもとに神に従うと同じように従わなければならなかったスペインやイタリヤの女性・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・ゴオチェは華美なアントニーとクレオパトラのロマンスの描写において。デュマはその歴史小説において。 金くさい卑俗な利害のために日夜鎬を削るブルジョア共の社会生活に反抗するこれらのロマンチスト作家たちが互に「焔の如く燃ゆる人々」として結合し・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・いわゆる五・一五事件当時から山岸敬明と妻君のあや子という人の間には、新聞口調でいえば、灼熱のロマンスがひめられていたそうです。このあやさんが賀陽氏のいとこなのだそうです。 だいたい生活能力のあたえられずに生きてきた皇族の今日の生活は、実・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
・・・今日、我々はどう考えても、ヘレナ一人のために、二つの部族と神々まで加えた戦争を惹起するような空想は、たとい一種のロマンスとしても実感を以て描くことが出来ないだろう。恋愛のいきさつは、人類の祖先が原始的生活を営んでいた時代、直に一集団の本能を・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・弟は放蕩をはじめ、マリアのところには何か芳しくないロマンスがある。そのマリアに、ゴーリキイは自分が恋しているように思われた。ゴーリキイの二十歳という年齢、たっぷりした強い感覚的な性格、生活の錯雑が、女の愛撫を要求した。女の親切な注意がほしか・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・つまり人及び芸術家が魅力を感じるべき点がことごとくゆがめられて通俗なロマンスとなっているのである。 例えばマリアが病気になっている。しかも大変わるくなっている。それを知っているのは、彼女を魂から愛している老家庭医のワリツキイ博士だけであ・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・そこから美しい悲しいロマンスが生れている。女の自主性というものがどんなに無視され、また警戒されていたかということは次の興味ある物語でも知られる。 騎士の一人にガラハートという勇士があった。或る時森で悪魔的な巨人に出合った。そして難題・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫