・・・警句は天才の最も得意とする武器であって、オスカー・ワイルドもメーターランクも人気の半ばは警句の力である。蘇峰も漱石も芥川龍之介も頗る巧妙な警句の製造家である。が、緑雨のスッキリした骨と皮の身体つき、ギロリとした眼つき、絶間ない唇辺の薄笑い、・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・長兄の書棚には、ワイルド全集、イプセン全集、それから日本の戯曲家の著書が、いっぱい、つまって在りました。長兄自身も、戯曲を書いて、ときどき弟妹たちを一室に呼び集め、読んで聞かせてくれることがあって、そんな時の長兄の顔は、しんから嬉しそうに見・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・ キリストは自己のために万人を救うたのだと云うたワイルドの言を正しいと思う。 彼の最も清浄な、涙組むまで美くしい心のあふれ出た「獄中記」の中で、「基督は、何者にもまして個人主義者の最高の位置を占むべき人である」と云うて居る。・・・ 宮本百合子 「大いなるもの」
・・・大正初めのその頃文学好きな人は殆どみんな読んだワイルドの作品だのポウだの、武者小路実篤の書いたものを手に入る片はじから熱心に読み、自分から書くものはと云えば、手に負えない内心の有様とはかかわりない他愛のない物語だったことも、精神が不平均に芽・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・その次には、ダヌンチョオ、ワイルドという順でした。それは私が十三四歳の時分で、その頃非常にダヌンチョオが流行っていましたので、かなり沢山読みました。ロシヤの作家のものは全体に好きですけれども、やはりこの人のものだけというようなことはありませ・・・ 宮本百合子 「十年の思い出」
・・・「ねえ、ワイルドの作品の様な―― 音をききすます様な目をして千世子は云った。「幾分かはそう思いますけど―― それほどに感じませんよ。 千世子は篤の答にがっかりした様に首を振って静かに蓋を閉じた。「・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
ツワイクの「三人の巨匠」p.150○ワイルドがその中で鉱滓となってしまった熱の中でドストイェフスキーは輝く硬度宝石に形づくられた。○災厄の変化者、あらゆる屈辱の価値の変革者としてのドストイェフスキー。○彼は自己・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・一葉だの、ワイルドだのの影響があった。母が或る時土産に二冊本をくれた。アラン・ポウの傑作集だった。以来、時々これで本をお買いと一円か二円くれた。女学校の四年ごろからロシヤ文学に熱中しだした。トルストイが最も自分を捕えた。西洋史で・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ ツワイクがドストイェフスキー論の中に言っているとおり、「ワイルドがその中で鉱滓となってしまった熱の中でドストイェフスキーは輝く硬度宝石に形づくられた。」 巨人の檻 バルザックは、徹底的に、雄渾に、執拗・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・ポーの小説集二冊を母が何かの拍子で買って来てくれたことから、次第に私の本棚にはワイルドだの、小川未明だの、ダヌンツィオだのが加って行った。ワイルド警句集という小型の本も今度出て来た。あけてみると、ところどころに赤鉛筆でマルがつけてある。・・・ 宮本百合子 「本棚」
出典:青空文庫