・・・ロオランの書いたジャン・クリストフとワッセルマンの書いたダニエル・ノオトハフトとを一丸にしたような天才です。が、まだ貧乏だったり何かするために誰にも認められていないのですがね。これは僕の友人の音楽家をモデルにするつもりです。もっとも僕の友人・・・ 芥川竜之介 「或恋愛小説」
・・・久万川の土手に沿うた一丸の二番稲があってその中に鴫が居ると見える。網を斜めに下向けてしきりにねらっている。自分等も息を殺して見ているとたちまち頭の上でばさ/\と音がする。蜻とんぼが傘にとまっていたのが外のとんぼと喰い合って小溝へ落ちそうにし・・・ 寺田寅彦 「鴫つき」
・・・もしそうであらばエネルギーと物質とは打して一丸となり、物質すなわちエネルギーとなる訳である。しかしこの疑問はまだなかなか解決がつかぬ。陰電子とともに物質を構成しておりしかも物質質量の大部分をなしている陽電子なるものの性質本体がまだ分らぬうち・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・五十歳前、徳川三百年の封建社会をただ一簸りに推流して日本を打って一丸とした世界の大潮流は、倦まず息まず澎湃として流れている。それは人類が一にならんとする傾向である。四海同胞の理想を実現せんとする人類の心である。今日の世界はある意味において五・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・なぜかと云うと、篇中に出て来る人間の心状、及び動作がことごとくタイフーンと舟火事なる自然力を離れずに、どこまでも密接な関係をもって展化進行するから、自然と人間が打って一丸となされて、偉大なる自然力の裏に副え物として人間が調子よく活動するから・・・ 夏目漱石 「コンラッドの描きたる自然について」
・・・あたかも大学と劇場と美術学校と美術館と音楽学校と音楽堂と図書館と修道院とを打って一丸としたような、あらゆる種類の精神的滋養を蔵した所であった。そこで彼らは象徴詩にして哲理の書なる仏典の講義を聞いた。その神話的な、象徴化の多い表現に親しむとと・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫