・・・ ――一対一ということにして。 私は象戯の駒を箱へしまいながら、 ――他日、勝負をつけましょう。 これが深田氏の、太宰についてのたった一つの残念な思い出話になるのだ。「一対一。そのうち勝負をつけましょう、と言い、私もそれをた・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・お互い、一対一じゃねえか。五厘でも、一銭でも、もうけさせてもらったら、私は商人だ。どんなにでも、へえへえしてあげるが、そうでもなけれあ、何もお前さんに、こごとを聞かされるようなことは、ねえんだ。」「それあ、理窟だ。そんなら、僕だって理窟・・・ 太宰治 「市井喧争」
・・・けれども今は、どんな人にでも、一対一だ。これは私の自信でもあり、謙遜でもある。どんな人にでも、負けてはならぬ。勝をゆずる、など、なんという思いあがった、そうして卑劣な精神であろう。ゆずるも、ゆずらぬもない。勝利などというものは、これはよほど・・・ 太宰治 「春の盗賊」
出典:青空文庫