・・・この一戦なにがなんでもやり抜くぞ、という歌を将軍たちは奨励したが、少しもはやらなかった。さすがに民衆も、はずかしくて歌えなかったようである。将軍たちはまた、鉄桶という言葉をやたらに新聞人たちに使用させた。しかし、それは棺桶を聯想させた。転進・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・ 「第一軍も出たんだろうナ」 「もちろんさ」 「ひとつうまく背後を断ってやりたい」 「今度はきっとうまくやるよ」 と言って耳を傾けた。砲声がまた盛んに聞こえ出した。 新台子の兵站部は今雑沓を極めていた。後備旅団の・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・場合によってはある一人のこういう耐久力のいかんによって一軍あるいは一国の運命が決するようなことがないとも限らない。 最も変わったレコードとしては、アメリカのコーラスガールで、接吻の際における心臓鼓動数の増加が毎分十五という数字を得ている・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・負債と負債にからまって押しよせる一軍団の敵に立ち向うために、彼は只ペンの力だけが真に自分にのこされた最後の武器であることを自覚したのである。 この年、一七九九年のブルターニュの反乱を題材とした「木菟党」を発表し、バルザックはこの小説で初・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫