・・・ こんなくだらない物思いに沈んでいるよりも、しばらく怠っていた海水浴でもして、すべての考えを一新してしまおうかと思いつき、まず、あぐんでいる身体を自分で引き立て、さんざんに肘を張って見たり、胸をさすって見たり、腕をなぐって見たりしたが、・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・トーヴァルセンを出して世界の彫刻術に一新紀元を劃し、アンデルセンを出して近世お伽話の元祖たらしめ、キェルケゴールを出して無教会主義のキリスト教を世界に唱えしめしデンマークは、実に柔和なる牝牛の産をもって立つ小にして静かなる国であります。・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・政治に依る強権は、一夜にして、社会の組織を一新することができるでありましょう。しかし、一夜に人間を改造することはできない。人間を改造するものは、良心の陶冶に依るものです。芸術の使命が、宗教や、教育と、相俟ってこゝに目的を有するのは言うまでも・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・近頃の東京近郊の面目を一新させた因子のうちで最も有効なものと云えば、コンクリートの鋪装道路であろうと思われる。道路に土が顔を出している処には近代都市は存在しないということになるらしい。 荒川放水路の水量を調節する近代科学的閘門の上を通っ・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・ある人は面目を一新したと云って多大の希望をかけたようであり、またある人は別段の変りもないと云って落着いていた。前者は相に注目したのであり、後者は本質の事を云ったのであろう。今年も多少の相の変化はあるに相違ない。ある意味では変化し過ぎて困るか・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・この小説の中に、かつてシャンパンユの平和なる田園に生れて巴里の美術家となった一青年が、爆裂弾のために全村尽く破滅したその故郷に遊び、むかしの静な村落が戦後一変して物質的文明の利器を集めた一新市街になっているのを目撃し、悲愁の情と共にまた一縷・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・学校の規則もとより門閥貴賤を問わずと、表向の名に唱るのみならず事実にこの趣意を貫き、設立のその日より釐毫も仮すところなくして、あたかも封建門閥の残夢中に純然たる四民同権の一新世界を開きたるがごとし。 けだし慶応義塾の社員は中津の旧藩士族・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・文学は一見隆盛であって、しかもその実質は低められもしあるいは亀裂が入り、あるいは一新の前の薄闇におかれている。よかれあしかれ、男の作家のもつ社会性のひろさ、敏感さ、積極性がそういう文学上の混乱を示しているのであるが、婦人作家たちの多くは、そ・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・ この自然科学の一新面の話が、ひどく面白く思われるのは、文学のリアリズムの問題がすぐ思い浮ぶからであった。リアリズムへの疑問というようなものは、これまでの文学の歴史のなかでも様々な時代に様々な社会層の心情の反映として表明されて来ていると・・・ 宮本百合子 「リアルな方法とは」
出典:青空文庫