・・・でも、「阿部一族」でも、ちゃんと映画になっている様子だ。「女の決闘」の映画などは、在り得ない。 どうも、自作を語るのは、いやだ。自己嫌悪で一ぱいだ。「わが子を語れ」と言われたら、志賀直哉ほどの達人でも、ちょっと躊躇するにちがいな・・・ 太宰治 「自作を語る」
・・・俺の一族は、いいか、この地方では一ばん古い家柄という事になっているんだ。何でも、祖先は、京都の人で」と言いかけて、さすがに、てれくさそうに、ふふんと笑い、「婆の話だから、あてにはならんが、とにかくちゃんとした系図は在るのだ」 私はまじめ・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・実に、べらぼうにお金のかかる大病人である。一族から、このような大病人がひとり出たばかりに、私の身内の者たちは、皆痩せて、一様に少しずつ寿命をちぢめたようだ。死にやいいんだ。つまらんものを書いて、佳作だの何だのと、軽薄におだてられたいばかりに・・・ 太宰治 「父」
・・・平治の乱に破れて一族と共に東国へ落ちる途中、当時十三歳の頼朝は馬上でうとうと居睡りをして、ひとり、はぐれた。平治物語に拠ると、「十二月二十七日の夜更方の事なれば、暗さは暗し、先も見えねども、馬に任せて只一騎、心細く落ち給う。森山の宿に入り給・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ 幼時を追想する時には必ず想い出す重兵衛さんの一族の人々が、自分の内部生活に及ぼした影響と云ったようなことは、近頃までついぞ一度も考えてみたことはなかったのである。この頃になって、自分に親しかった、そうして自分の生涯に決定的な影響を及ぼ・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・ 楠一族の色彩ははなはだよろしい。第一調和しているようです。正成の細君は品があってよござんす、あの子も好い。みんな好い色だ。 私の厭なところと、好なところを性質から区別して並べて御覧に入れました。これで私が芝居を見ている時の順慶流の・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・ 芳子さんと政子さんは、同じ一族の人々ですから、二人とも苗字は、同じで三田といいました。「貴女とは従姉妹同志ですね。政子さんの御両親はいつ頃お亡くなりになりました?」「私は、余り小さい時分でございますから、ちっとも覚えては居りま・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・ 封建のモラルをそれなりその無垢を美しさとして肯定して書いた第一作から、第二作の「阿部一族」迄の間には、作者鴎外の客観性も現実性も深く大きく展開されている。芸術家としての鴎外が興津彌五右衛門の境地にのみとどまり得ないで、一年ののちには更・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ 東北の伊達一族は、その胆力と智略とで、徳川から特別の関心をもたれた。聰明な伊達の家長たちは、その危険を十分に洞察した。伊達政宗がわざと大酔して空寝入りをし、自分の大刀に錆の出ていることを盗見させた逸話は有名である。伊達模様という一つの・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・大抵『アラビアのロレンス』『今日の戦争』『北極飛行』『阿部一族』『高瀬舟』等。 お友達への本代のことは心にかけていますが、そちらからのも手をつけずにとってあって、反って厭だということなので、子供さんのものや何かを送ろうと思います。暮まで・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫