・・・昨日……たしか昨日と思うが、傷を負ってから最う一昼夜、こうして二昼夜三昼夜と経つ内には死ぬ。何の業くれ、死は一ツだ。寧そ寂然としていた方が好い。身動がならぬなら、せんでも好い。序に頭の機能も止めて欲しいが、こればかりは如何する事も出来ず、千・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・すぐにととのえる事も出来ますが、着物や襦袢はこれから柄を見たてて仕立てさせなければいけないのだし、と中畑さんが言うのにおっかぶせて、出来ますよ、出来ますよ、三越かどこかの大きい呉服屋にたのんでごらん、一昼夜で縫ってくれます、裁縫師が十人も二・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・私は、生まれてはじめてと言っていいくらいの不思議な感情ばかりを味わった。 思いも設けなかった運命が、すぐ続いて展開した。それから数日後、私は劇烈な腹痛に襲われたのである。私は一昼夜眠らずに怺えた。湯たんぽで腹部を温めた。気が遠くなりかけ・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・あれから、一昼夜。橋のたもとの、夕刊を買う人の行列の中にはいる。三種類の夕刊を買う。片端から調べる。出ていない。出ていないのが、かえって不安であった。記事差止め。秘密裡に犯人を追跡しているのに違い無い。 こうしては、おられない。金のある・・・ 太宰治 「犯人」
・・・従ってわれわれのだいじな五体も不断にこの弾丸のために縦横無尽に射通されつつあるのは事実で、しかも一平方センチメートルごとに大約毎分一個ぐらいの割合であるから、たとえば頭蓋骨だけでも毎分二三百発、一昼夜にすれば数十万発の微小な弾丸で射通されて・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・ 一体、海の面はどこでも一昼夜に二度ずつ上がり下がりをするもので、それを潮の満干と云います。これは月と太陽との引力のために起るもので、月や太陽が絶えず東から西へ廻るにつれて地球上の海面の高く膨れた満潮の部分と低くなった干潮の部分もまた大・・・ 寺田寅彦 「瀬戸内海の潮と潮流」
昭和九年九月十三日頃南洋パラオの南東海上に颱風の卵子らしいものが現われた。それが大体北西の針路を取ってざっと一昼夜に百里程度の速度で進んでいた。十九日の晩ちょうど台湾の東方に達した頃から針路を東北に転じて二十日の朝頃からは・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ 三十年ほど前にはH博士の助手として、大湯間歇泉の物理的調査に来て一週間くらい滞在した。一昼夜に五、六回の噴出を、色々な器械を使って観測するのであるが、一回の噴出に約二時間もかかる上に噴出前の準備があり噴出後の始末もあるので、夜もおちお・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・一匁の分銅を一分間吊した後と、一時間あるいは一昼夜吊しておいた後とは幾分の差がある。またあらかじめ百匁を五分間吊した後十匁をかけたのと、一匁を同じく五分吊した後同じ十匁を懸けたのとでも若干の相違がある。また温度をいったん百度まで上げて十度に・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・それにしてはあまりに貧弱な露店のような台ではあるが、しかし熱海の間歇泉から噴出する熱湯は方尺にも足りない穴から一昼夜わずかに二回しかも毎回数十分出るだけであれだけの温泉宿の湯槽を満たしている事を考えればこれも不思議ではないかもしれない。ここ・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
出典:青空文庫