・・・いかに交通が便利になって、東京ロンドン間を一昼夜に往復できるようになっても、日本の国土を気候的地理的に改造することは当分むつかしいからである。ジャズや弁証法的唯物論のはやる都会でも、朝顔の鉢はオフィスの窓に、プロレタリアの縁側に涼風を呼んで・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・厭な一昼夜を過ごしてようよう翌朝になったが矢張前日の煩悶は少しも減じないので、考えれば考える程不愉快を増す許りであった。然るにどういうはずみであったか、此主観的の感じがフイと客観的の感じに変ってしまった。自分はもう既に死んでいるので小さき早・・・ 正岡子規 「死後」
・・・ 大抵一昼夜経てば天候は変るのに、その雨は三十日になってもやまず、一日同じひどさ、同じ沛然さで、天から降り落ちた。雨の音がひどいので、自分の入って居る家以外皆家も人も存在を消されたように感じた。床についてから、洗い流すような水の音、二階・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・住吉の社頭で大矢数一昼夜に二万三千五百句を吐いた西鶴が、そのような早口俳諧をもってする風俗描写の練達から自然散文の世界に入って、浮世草子「好色一代男」などを書き始めた必然の過程は、人生と芸術への疑いにみたされていた桃青にどのような感想を与え・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・「彼等の中の誰も私のところに、仕事場に来てくれるものはなく、私は一昼夜十四時間も仕事をしているので、普通の日にはデレンコフの所へ行くことが出来なかった。休みの日には或は眠り、或は仕事仲間と一緒にいた。」と。 生活のためパン焼工場へ行った・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫