・・・妻も一処に怒りて争うは宜しからず、一時発作の病と視做し一時これを慰めて後に大に戒しむるは止むを得ざる処置なれども、其立腹の理非をも問わず唯恐れて順えとは、婦人は唯是れ男子の奴隷たるに過ぎず、感服す可らざるのみか、末段に女は夫を以て天とす云々・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・は母上の保管を乞うべし一 富継健三の養育は柳子殿ニ頼む一 柳子殿は両人を連れて実家へ帰らるべし一 富継健三の所得金は柳子殿に於て保管あるべし一 柳子殿は時機を見て再婚然るべし 一時の感情に任せ前後の考もなく薙髪などす・・・ 二葉亭四迷 「遺言状・遺族善後策」
・・・思えばこう感じるのも死にかかっての一時の事かも知れぬが、兎に角今までにこれ程感じた事はないから、己のためには幸福だ。このまま死んでしもうても、今我胸に充ちたものは、今までの色も香もない生活には遥に優っているに違いない。己は己の存在を死んで初・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・昨夜も大勢来て居った友人(碧梧桐、鼠骨、左千夫、秀真、節は帰ってしもうて余らの眠りに就たのは一時頃であったが、今朝起きて見ると、足の動かぬ事は前日と同しであるが、昨夜に限って殆ど間断なく熟睡を得たためであるか、精神は非常に安穏であった。顔は・・・ 正岡子規 「九月十四日の朝」
・・・ほんの一時のまぎれ込みなどは結局斯う私は自分で自分に誨えるようにしました。けれどもどうもおかしいことはあの天盤のつめたいまるめろに似たかおりがまだその辺に漂っているのでした。そして私はまたちらっとさっきのあやしい天の世界の空間を夢のように感・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・ 一時のこと、特別な場合として勿論そういうことも起るのは生活の自然だけれども、男女の協力ということは、決して、今日あるがままの女の仕事を男が代ってしてやること、または、男のするはずのことを女が代ってやるという単純なことではない。もしそれ・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・政治なんぞは先ず現状のままでは一時の物で、芸術は永遠の物だ。政治は一国の物で、芸術は人類の物だ。」小川は省内での饒舌家で、木村はいつもうるさく思っているが、そんな素振はしないように努めている。先方は持病の起ったように、調子附いて来た。「しか・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・夜なかが過ぎて一時になりましたころ、わたくしは雑談をいたしているのが厭になって来ましたので、わたくしどもを呼んで下すった奥さんに暇乞をいたしましたの。その時あなたはその奥さんの側に立っていらっしゃって、わたくしの顔をじっと見ていらっしゃいま・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
・・・これが感覚的なものか直感的なものか意志的なものかとの論証が一時人々の間に於て華かにされたことがある。だが、それは芸術と云う一つの概念が感覚的なものか直感的なものか意志的なものであるかと云うことについて論証することと何ら変るところもない馬鹿馬・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・舞台監督はこの新しき女優を神のごときサラと相並べることの不利を思って一時彼女を陰に置こうとした。しかしデュウゼはきかない。なあに競争しよう、比較していただこう。私は恐れはしない、Ci Sono auch' io なあに私だって女優だ。――そ・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫