・・・施政方針を語らないままで、公務員法案は一気にとおそうとしている。そういう妙なことは何の基盤で出来るのだろうか。吉田は腹の出来た政治家と云われている。事務的に科学的にものごとを処理する人柄よりも、ワッハッハという笑いかたで解決する東洋古風型で・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ 更に本筋の評論として、まだもっと何かをと求めるものが読者の心にあるとすれば、それは、この著者がこれまではどこやらいつも自分の照れ臭さを克服しきれないで、一気に自分の主題を歩きぬけて来ている、その力まけのようなものから生じている線の細さ・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・しかしながら、新聞は、繭の高価を見越し、米の上作を見越して債権者はこの秋こそ一気に数年来の貸金をとり立てようとしているから、それを注意せよ、当局もそこから生じる紛争を警戒している、というのである。農民は今日の社会的事情にあっては、実った稲を・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・ 朝、ペンを執るとお茶も飲まず何もしないで一気に書きつづけます。それでも遅筆の方で、一日平均五枚ぐらいしか書けません。 執筆中、これという気になることもありませんが、ただ風の音は嫌いです。 書斎と原稿用紙・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
・・・聞いて居る間に涙が出たが 後でYに話してきかそうとし、自分は終りまで一気に喋ることが出来なかった。 二十五日 十日ばかり経つがこの話から承けた感銘が消えぬ。心が心を撲つ力は「尤な理論」にだけはない。それを生きる、生きかた真情の総・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・ 私はうれしさに我を忘れて一気に向うまで馳け抜けて見ると、丁度カステラの切り目そっくりながけが目の前に切ったって居る。 私には見当もつかない程低い低い下の方から先(ぐの足元まで這い上って居るそのの面は鋭い武器で切られた様に滑らかそう・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・全従業員一万八百人を全部解雇、改めて新規定の四割減給で採用し、八百五十万円を浮かして、永年にたまった八百万円の赤字を一気にうめようと云う整理案である。 翌日の夕刊で、その整理案撤回を東交が要求して、罷業準備の指令を発したという記事をよん・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
この作品は「新聞配達夫」とは又別の意味で一気に終りまで読ませ、しかもなかなかひきつけるところのある作品である。病苦をめぐる良人の感情、妻の感情など素直にひたむきに描れているし、淫売屋での二人の女の会話のところなども自然であ・・・ 宮本百合子 「入選小説「毒」について」
・・・そして他の若者たちは躍り掛かって、肩をあてて一気に舟を引き上げる。こうして次から次へと数十艘の舟が陸へ上げられるのである。陸上の人数はますます殖える。舟はますますおもしろそうに上がって来る。老人と子供と女房たちは綱に捕まって快活に跳ねている・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・私は断片的になる危険を冒して一気に書き続けようと思う。(もうすぐに先生の死後九日目が初まる。田舎の事とてあたりは地の底に沈んで行くように静かである。あ、はるかに法鼓 先生の追懐に胸を充たされながらなお静かに考えをまとめる事のできないのは・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫