・・・ 二十五年の歳月が聊かなりとも文人の社会的位置を進めたのは時代の進歩として喜ぶべきであるが、世界の二大戦役を終って一躍して一等国の仲間入りした日本としては文人の位置は猶お余りに憐れで無かろう乎。例えば左にも右くにも文部省が功労者と認めて・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・外国人に対して乃公の国には富士山があるというような馬鹿は今日はあまり云わないようだが、戦争以後一等国になったんだという高慢な声は随所に聞くようである。なかなか気楽な見方をすればできるものだと思います。ではどうしてこの急場を切り抜けるかと質問・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ 勝ったおかげで一等国になれる、とよろこんだ日本の民草は、旗行列をし提灯行列をして、秀吉の好んだ桃山模様や、華美な元禄模様を流行させた。改良服は、その時代の気風のなかのいくらか合理的であろうとする面、あるいは世界の中へ前進しようとする方・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・日独協定のことについて、書かれるべき感想は更に多くあるのであろうが、お定の記事が、一等国の大新聞社会欄をあれほどの場面で占め得るということは、その一面に何を暗示しているのであろう。私共は、自分等の置かれている社会とその文化とは、果してかくも・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・明治以来、満州や中国へいくたびも侵入して、さまざまの残虐行為を行いながら、海をわたって日本へかえってくれば、あの土地で行った悪虐ぶりは知らない顔で一等国になったと威張っていた日本軍閥――資本主義は、太平洋戦争の拡大された戦場の経験で、はじめ・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・そして、政府が表明した勝利の終曲と、その勝利によってもたらされたと教えこまれた日本の世界一等国への参加をよろこんだだけであった。これら三つの戦争は、そのときどきの英雄大将を生みつつ一方では日本の街頭に廃兵の薬売りの姿を現出し、一将功なって万・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫