・・・経済的に、軍需工業関係者以外の一般人は、物価騰貴のため急速に貧困化している。文化的の面にもその貧困は響いて来ていると同時に、大衆の文化的内容そのものの質が、「依らしむべし。知らしむべからず」的事情の下に貧困化し低下しつつある。大衆の多くを語・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・作家の社会性拡大のために先頭に立っていたプロレタリア作家たちが、続々とあとへすさって来て、林氏のように自身の文学の本質を我から切々と抹殺し、或は西鶴を見直して、散文精神を唱え出した武田麟太郎氏のように一般人間性、性格、現実の文学的反映を云々・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・人間の笑いの中には一般人にとってあたり前のことが、どのようにあたりまえでなく行われるかというそのさまを見て、ついふきだす場合がある。そこに近親感もある。日本の伝統的な皇族への感情の習慣は、ナンセンスそのものを通じて、偶像を否定しきっていない・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・たまの休日は家へかえって本を読め、ということに対して、学生が反駁する心持も一般人の心として、十分肯けるものがあると思う。年中有意義無意義に繁忙で、本を読む時間も沈思する時間も持たない日常のひとたちは、全くたまの休みには家へかえって本でも読む・・・ 宮本百合子 「「健やかさ」とは」
・・・理非に訴えて政治的にそれを打破する可能は、その時々の支配力が決して一般人に与えていなかったものであった。 一九一八年以後の日本に民主的文学が擡頭して、文学の社会性について発展的な一歩を示したとき、例えば作家中村武羅夫は、有名であった「花・・・ 宮本百合子 「生活においての統一」
・・・その事実は、きょうでもまだ日本の一般人の国際的な動きを制約している。そのために、今日外国を見て来るほんの少数の人は、何とはなし特別なもの知りのように思われ、それぞれの職域で一種の権威者のようになりがちである。しかもその職域は、まだ根本から、・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・私たち一般人の生活の日常では、炭や米の問題が旺におこって来たこの二ヵ月ばかり前のことであった。そして、そういう火野葦平の文章ののっている朝日の同じ紙面のすぐ側に、米の配給に関する困難打開会議の記事も出ていた。「帰還兵の言葉」の筆者は、一つ紙・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・そういう場合は、無邪気で無責任なそして無智な観光者の異口同音さえ、その国の一般人の実際生活の上では案外の重圧と転化して上からかぶさって来ることもまれではないのである。 バックの中国についての感情は非常に深い。異国趣味なところは微塵もない・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
私たち一般人の日常生活の内外に相関連する社会的現実は、この二三年益々複雑多岐、錯綜、紛乱を極めて来ている。こういう社会の激しい矛盾の有様は、将来どうなってゆくのであろうか。今日このように巨大決裂の予感を感じさせている社会は・・・ 宮本百合子 「新島繁著『社会運動思想史』書評」
・・・そして一寸好い心持ちそうに、互に排撃するのはいいが暴力沙汰は一般人に不愉快な印象を与え、ひいて我国の無産運動に汚点をのこしたことになる云々と云ってる。だが無産運動、プロレタリアート文学の本道はこんなことでビクつくようなヤワなもんじゃない。断・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
出典:青空文庫