・・・音楽を専門にやっているぼくらがあの金沓鍛冶だの砂糖屋の丁稚なんかの寄り集りに負けてしまったらいったいわれわれの面目はどうなるんだ。おいゴーシュ君。君には困るんだがなあ。表情ということがまるでできてない。怒るも喜ぶも感情というものがさっぱり出・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・二三町行くと又足袋屋があったらこんどのは今の家よりは構も店さきが大きく、三四人の番当や丁稚が火鉢をかかえて円くすわって一番年かさらしい一人が新聞のつづき物を節をつけて読んできかせて居たが「今晩」と云うどら声がいきなりひびいたので読のをやめて・・・ 宮本百合子 「大きい足袋」
・・・ひとあしポーンとけってから丁稚のおもちゃにやっちまうさんざんけられてでこぼこになって中味の出た時にかまどの地獄になげられる、……だるまと生れたかなしさに逃げ出そうにも足はなしむざむざひどい目に合って死・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
出典:青空文庫