・・・その頃はまだ織女や牽牛は宵のうちにはかなりに東にあった。西の方の獅子宮には白く大きな木星が屋根越しに氷のような光を投げていた。 星座図にある「変光星」というのは何かという疑問も出た、私は簡単な説明をしてやってちょうど見えていた「織女」の・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・その次に七夕棚かなんかを出したら今度は見事に落選した。その後子規に会ったとき「あれはまずい、前のと別人のようだと不折が云っていた」と云われた。その後に冬木立の逆様に映った水面の絵を出したらそれは入選したが「あれはあまり凝り過ぎてると碧梧桐が・・・ 寺田寅彦 「明治三十二年頃」
・・・たとえば『そらまめの花』の巻には「七夕」の七の字があるだけで本来の「数字」は一つもないのに、『八九間』の巻には「小鳥一さけ」にすぐ続いて「十里あまり」が来る。『振り売りの』の巻にある「二十八日」から八句目に「七つさがり」があり、すぐ続いて「・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 十一日は陰暦の七夕の前日である。「笹は好しか」と云って歩く。翌日になって見ると、五色の紙に物を書いて、竹の枝に結び附けたのが、家毎に立ててある。小倉にはまだ乞巧奠の風俗が、一般に残っているのである。十五六日になると、「竹の花立はいりま・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫