・・・「七月×日 どうもあの若い支那人のやつは怪しからぬ脚をくつけたものである。俺の脚は両方とも蚤の巣窟と言っても好い。俺は今日も事務を執りながら、気違いになるくらい痒い思いをした。とにかく当分は全力を挙げて蚤退治の工夫をしなければならぬ。…・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・僕等は二人ともこの七月に大学の英文科を卒業していた。従って衣食の計を立てることは僕等の目前に迫っていた。僕はだんだん八犬伝を忘れ、教師になることなどを考え出した。が、そのうちに眠ったと見え、いつかこう言う短い夢を見ていた。 ――それは何・・・ 芥川竜之介 「海のほとり」
・・・ 明治七年七月七日、大雨の降続いたその七日七晩めに、町のもう一つの大河が可恐い洪水した。七の数が累なって、人死も夥多しかった。伝説じみるが事実である。が、その時さえこの川は、常夏の花に紅の口を漱がせ、柳の影は黒髪を解かしたのであったに―・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・ 一室――ここへ入ってからの第二の……第三の妖は……………………昭和八年七月 泉鏡花 「開扉一妖帖」
はしがき この小冊子は、明治二十七年七月相州箱根駅において開設せられしキリスト教徒第六夏期学校において述べし余の講話を、同校委員諸子の承諾を得てここに印刷に附せしものなり。 事、キリスト教と学生とにかんすること多し、しかれど・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ところが、その翌る年の七月二十四日の陶器祭、この日は瀬戸物町に陶器作りの人形が出て、年に一度の賑いで、私の心も浮々としていたが、その雑鬧の中で私はぱったり文子に出くわしました。母親といっしょに祭見物に来ていたのです。文子は私の顔を見ても、つ・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ 更に、べつの皮肉屋の言うのには、「七月一日から煙草が値上りになるのは、たびたびの盗難による専売局の赤字を埋めるためだ」と。 それほど盗難が多いし、また闇商人が語っているように、横流しが多いのだ。そして、それが闇市場でまるで新聞・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・ と嘆息させたのであるが、その時は幸いに無事だったが、月から計算してみて、七月中旬亡父の三周忌に帰郷した、その前後であるらしい。その前月おせいは一度鎌倉へつれ帰されたのだが、すぐまた逃げだしてき、その解決方に自分から鎌倉に出向いて行ったとこ・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・ ――その後は御無沙汰しておりました。七月号K誌おみくじの作を拝見し、それに対するいたずら書きさしあげて以来の御無沙汰です。いや御通知いたしかねていたのです。半僧坊のおみくじでは、前途成好事――云々とあったが、あの際大吉は凶にかえるとあ・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
・・・文応元年七月十六日、屋戸野入道に付して、古最明寺入道殿に進め了んぬ。これ偏に国土の恩を報ぜん為めなり。」 これが日蓮の国家三大諫暁の第一回であった。 この日蓮の「国土の恩」の思想はわれわれ今日の日本の知識層が新しく猛省して、再認識せ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
出典:青空文庫