・・・もしそれこれを憶うていよいよ感じ、瞑想静思の極にいたればわれ実に一呼吸の機微に万有の生命と触着するを感じたりき もしこの事、単にわが空漠たる信念なりとするも、わが心この世の苦悩にもがき暗憺たる日夜を送る時に当たりて、われいかにしばしば汝・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・ここで、いったい去来という人の頭の中に、ありとあらゆる天地万有のうちから、物もあろうに特に選ばれてこの「盃」というものの心像がどうしてまさにここに浮かび上がったかと考えてみなければならない。前句は新畳を敷いた座敷である、それを通して前々句を・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・其原因様々なる中にも、少小の時より教育の方針を誤りて自尊自重の徳義を軽んじ、万有自然の数理を等閑にし、徒に浮華に流れて虚文を弄ぶが如き、自から禍源の大なるものと言う可し。例えば学校の女生徒が少しく字を知り又洋書など解し得ると同時に、所謂詠歌・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・己の喜だの悲だのというものは、本当の喜や悲でなくって、謂わば未来の人生の影を取り越して写したものか、さもなくば本当に味のある万有のうつろな図のようなものであって、己はつまり影と相撲を取っていたので、己の慾という慾は何の味をも知らずに夢の中に・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・それは丁度人間が原始時代から或る発達の経過を踏むと同じことです。万有は勿論、人間も文芸も、それと同じ一つの大きな道を通って来たものです。その各時代がそれを正しく発表していると同様に、自分がその大道の一期間に正しい生活をすれば、その中に新しい・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・ ゲーテが五つ六つの時、父親の鉱物標本を譜面台の上に積み重ねて祭壇をこしらえ、レンズで集めた太陽の光で香をたいて、その前に燻じ、万有の神に捧げたという話は、世界文学史の上に「黄金のように輝いた少年」ゲーテにふさわしい逸話として或る意味で・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・この意義における個人主義は、哲学的に言えば、万有主義と対している。家族とか、社会とか国家とかいうものを、この個人主義が破壊するものではない。 Stirnerの人生観のように、あらゆる観念を破壊して、跡に自我ばかりを残したものがあって、そ・・・ 森鴎外 「文芸の主義」
出典:青空文庫