・・・電流と磁気との基礎的な関係をゆっくり丁寧になるべく簡単な実験で十分徹底的に諒解させれば、ダイナモやモーターの色々な様式などは三文雑誌にでも譲って沢山であろう。しかし、そういう一番肝心な基礎的なことがよく分からないで枝葉のデテールをごたごたに・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・羲之の書をデモ書家が真似したとて其筆意を取らんは難く、金岡の画を三文画師が引写にしたればとて其神を伝んは難し。小説を編むも同じ事也。浮世の形を写すさえ容易なことではなきものを況てや其の意をや。浮世の形のみを写して其意を写さざるものは下手の作・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・そして、愛という字が近代の偽善と自己欺瞞のシムボルのようになったのはいつの時代からでしょうか。三文文士がこの字で幼稚な読者をごまかし、説教壇からこの字を叫んで戦争を煽動し、最も軽薄な愛人たちが、彼等のさまざまなモメントに、愛を囁いて、一人一・・・ 宮本百合子 「愛」
・・・チェホフは人間の見えない三文文士ではなかった。 私を忘れないでお呉れ、もっと度々私に手紙をおくれ。私のことを思ってお呉れ。どんなことが起ろうとも、たとえお前が不意にお婆さんに変ろうとも、私は矢張りお前を愛すであろう。――お前のたましいと・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
出典:青空文庫