・・・大鎌の奇怪なる角度より発散する三角形の光りの細胞は舞上り舞下りて闇黒の中に無形の譜を作りて死を讚美し祝し―― おどり狂う――大鎌をうちふりうちふりてなぎたおされんものをあさりつつ死は音もなく歩み・・・ 宮本百合子 「片すみにかがむ死の影」
・・・第一房の金網ばりの高窓からチョッピリ三角形に見える青空と、どこかの家の黄色っぽいペンキを塗ったトタンの羽目が落付かない光で反射するようになった。非人間的な無為と不潔さでしずまりかえっている留置場の永い午後、表通りの電車のベルの音がひろく乾い・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・その河が二股にわかれた北河岸に、不規則な三角形の城壁でとりまかれた一区廓は、全世界のブルジョアとプロレタリアートに一種の感銘をもってその名をひびかしているところのクレムリン。 この頃は城壁内の青草が茂って、ビザンチン式の古風な緑や茶色の・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・けれども、ここの町内のは小さく三角形の頂きをもったものではなくて、四分板へいきなり名誉戦死者の軍人としての階級も大書して、それを門傍の塀へ、塀いっぱいの高さに釘づけにしてある。火事にあって立ちのき先を四分板へ大書しておく、あの感じで、それは・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・ 前の家、トタン屋根、青く土のかびた土間、 裏、青みどろの浮いている水たまりを隔ててすぐ小高い線路 ○三角形の空地 鶏、うさぎの棚。 ○むこうの森 島田川○家じゅうに戸棚が三尺の一間の一間ぐらいしかない。板の間に長持・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
・・・階段はさきを切った三角形になっていて、そのさきを切ったところに戸口が二つある。渡辺はどれからはいるのかと迷いながら、階段を登ってみると、左の方の戸口に入口と書いてある。 靴がだいぶ泥になっているので、丁寧に掃除をして、硝子戸をあけてはい・・・ 森鴎外 「普請中」
・・・その下で、紫や紅の縮緬の袱紗を帯から三角形に垂らした娘たちが、敷居や畳の条目を見詰めながら、濃茶の泡の耀いている大きな鉢を私の前に運んで来てくれた。これらの娘たちは、伯母の所へ茶や縫物や生花を習いに来ている町の娘たちで二三十人もいた。二階の・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫