空の美しさという場合、大抵広々とした空、晴やかな空などという。 郊外に住むようになってから、私は更に種類の異う空の美があることを知った。それは、大都会の上の空――大都会のペーヴメントに立って仰ぐ空の美しさだ。空はそこで・・・ 宮本百合子 「空の美」
・・・ メーテルリンクという言葉に、朱線を引き、感激した彼女は、今、その感激はちょうど、小さい子供が、頭の上の空で、美くしく拡がる花火の光りを、喝采しながら 綺麗だなあ、綺麗だなあと・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・窓からは遠く森や丘のつらなった外景と、その上の空が見えていて、風景は骨組の大きい一人物の肖像のバックをなした。深くはげ上ったかたい前頭。熱中して性急に話すにつれて、その主張をききての心の中へ刺しこもうとするように動き出す右の手と人さし指の独・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・せきは、上の空で、「そうさねえ」と応じながら、熱心に志津の八反の着物や、藤紫の半襟を下から見上げた。「――その着物、さらだね」「おばあさんにゃ、十度目でもさらだから始末がいいわ――ね、本当にどうする? 私これからかえったって・・・ 宮本百合子 「街」
・・・そこへ秀麿が蒼い顔をして出て来て、何か上の空で言って、跡は黙り込んでしまう。こっちから何か話し掛けると、実の入っていないような、責を塞ぐような返事を、詞の調子だけ優しくしてする。なんだか、こっちの詞は、子供が銅像に吹矢を射掛けたように、皮膚・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫