・・・そして予はいま上代的紅顔の美女に中食をすすめられつついる。予はさきに宿の娘といったが、このことばをふつうにいう宿屋の娘の軽薄な意味にとられてはこまる。 予の口がおもいせいか、娘はますますかたい。予はことばをおしだすようにして、夏になれば・・・ 伊藤左千夫 「河口湖」
・・・してみれば古来何千年の労力と歳月を挙げてようやくの事現代の位置まで進んで来たのであるからして、いやしくもこの二種類の活力が上代から今に至る長い時間に工夫し得た結果として昔よりも生活が楽になっていなければならないはずであります。けれども実際は・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・そうして去年五月発行とある新刊の方は、かえって第一巻に相当する上代以後の歴史であった。最後の巻、即ち十七世紀の中頃から維新の変に至るまでの沿革は、今なお述作中にかかる未成品に過ぎなかった。その上去年の第一巻とこれから出る第三巻目は、先生一個・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・ かえりみれば、これまで私たち日本人が教えこまれていた日本の歴史は、むきになって強調されていた上代の神話と、後代の内国戦の物語、近代日本の支那・ロシア・朝鮮・満州などにおける侵略戦争とその植民地化との物語であった。その時代時代の軍事上の・・・ 宮本百合子 「『くにのあゆみ』について」
・・・ 訳者富野敬照氏は日本の上代の歴史との連関においても『母権論』の古典的文献的価値を認めて居られる。モルガンの「古代社会」や家族、私有財産及び国家の起源に関するエンゲルスの著作などは、その見解に対する賛否はいずれにせよ、その部門での古典と・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
・・・しかし後に現われたものがかなり強く実践的であるに反して、上代のものは特に明瞭に芸術的であった。この密接な芸術と宗教との結合が、偶像崇拝に対してきわめて正当な根拠を与え得るのである。 私は、昔ながらの山野と矮屋とを見慣れた我々の祖先が・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫