・・・ 今日男女の青年たちの或るものが、形式ばった挨拶だけは上手で、一向に公徳心も、若者らしいやさしさもない心でいるのは、形式一点ばりであった軍事的教育の害悪です。 女の子だからと云って、女のくせに、と禁止ばかり多い育てかたをする時代・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・中にも弥一右衛門の二男弥五兵衛は鎗が得意で、又七郎も同じ技を嗜むところから、親しい中で広言をし合って、「お手前が上手でもそれがしにはかなうまい」、「いやそれがしがなんでお手前に負けよう」などと言っていた。 そこで先代の殿様の病中に、弥一・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・彼は子供を遊ばすことが何よりも上手であった。彼はいつも子供の宿ったときに限ってするように、また今日も五号の部屋の前を往ったり来たりし始めた。次には小さな声で歌を唄った。暫くして、彼はソッと部屋の中を覗くと、婦人がひとり起きて来て寝巻のまま障・・・ 横光利一 「赤い着物」
・・・いずれもその後に及ぶもののない無双の上手とされている。我々には理解のできない問題であるが、諸道の明匠が雲のごとく顕われていた応永、永享の時代を飾るに足る花なのであろう。 ところで、そういう時代の思想界から誰を代表者として選ぶかということ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫