・・・ あまりの上首尾、小宮山は空可恐しく思っております。女は慇懃に手を突いて、「それでは、お緩り御寝みなさいまし、まだお早うございますから、私共は皆起きております、御用がございましたら御遠慮なく手をお叩き遊ばして、それからあのお湯でござ・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ 嘘みたいな上首尾だった。こうまで巧く成功するのは、お前……いや、このおれも予想しなかった。たいていのことに驚かぬおれだが、この時ばかりは、自分でも嫌気がさすくらいだった。 無論、これはおれだけの気持、お前と来ては、一万九千円を・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ や、それは、と善平はわれ知らず乗り出して、それは重々の上首尾で、失礼ながらあなたの機敏なお働きには、この善平いつもながら実に感服いたしまする。 ひらめき渡る辰弥の目の中にある物は今躍り上りてこの機を掴みぬ。得たりとばかり膝を進めて・・・ 川上眉山 「書記官」
出典:青空文庫