・・・そうしてその秋山図よりも、おそらくは下位にある黄一峯です。 私の周囲には王氏を始め、座にい合せた食客たちが、私の顔色を窺っていました。ですから私は失望の色が、寸分も顔へ露われないように、気を使う必要があったのです。が、いくら努めてみても・・・ 芥川竜之介 「秋山図」
・・・同じ人が僅か四五年の後に進んで現行勢力の下位に文学を置こうとすることは理解に困難である。 室生犀星氏が近衛公や一部の顕官に逢い、一夕文学談を交したことで、軍人、官吏も文学を理解しようとする誠意を持っていると感激し、庶民出生の長い艱難多か・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ けれども、彼の如く、上流の下、或は中の下位の社会的地位の者の家庭に滲み込んで居る、子供としての独立力の欠乏、剛健さの退廃と云うものは、確に自分に頭と一致しない矛盾を与えて居たと思う。 幸、性格的に自分は甘たるい、つんとした、そして・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・はっきりした言葉にならぬまでも、文学の仕事を他の政治的な仕事と比べて機械的に下位に置かれた仕事の感じを抱いていないとは決して言えないと思う。今日に於て、自分の最上の努力、最上の献身をもって従事すべき仕事としての自覚、誠実が不足している。さも・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・ただそれが美への関心の下位に立ちさえすればよいのである。むしろ善への関心の強く存在する方がこの特性を一層明らかにするだろう。なぜなら、善への関心が強まるほど美への関心は一層強まり、従って後者を「ヨリ重んずる」ことがきわ立って来るからである。・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫