・・・だからして記憶の最高度はもっとも明暸なる上層の意識で、その最低度はもっとも不明暸なる下層の意識に過ぎんのであります。 すると意識の連続は是非共記憶を含んでおらねばならず、記憶というと是非共時間を含んで来なければならなくなります。からして・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・マナーが――態度及び挙止動作が――ノッペリしている人間で、手を出して握手をしたりする。下層社会の女などがよくあの人は様子が宜いということをいうが、様子が宜い位で女に惚れられるのは、男子の不面目だと思います。様子が宜いというのは、人を外らさな・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・ところで、日本のインテリは、欧羅巴のそれに比して一般に程度が低く、知識人としての下層に居る。単にそればかりでなく、日本の詩人や文学者は、一般に言つて「哲学する精神」を所有して居ない。そしてこれが、ニイチェを日本の理解からさまたげてる最も根本・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・そして下層の空気や地表からの熱の放散を防ぎ、地球全体を平均で五度ぐらい暖かくするだろうと思う。」「先生、あれを今すぐ噴かせられないでしょうか。」「それはできるだろう。けれども、その仕事に行ったもののうち、最後の一人はどうしても逃げら・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・彼女たちが労働者や下層民をさけたために、民主党を支持する人民層の意見が反映しなかったのだろうと、東京新聞で小山栄三が書いている。 ギャラップの世論調査所に働いているのが女子だったから、アンケートの送りさきが限定されたのではなかった。彼女・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ アグネス・スメドレーはアメリカの下層生活から育って来た革命的ジャーナリストである。彼女の「女一人大地をゆく」に溢れているつよい生活力は、彼女の政治的な成長とともに、そのアナーキスティックな要素を力づよく人民の発展的な歴史性に統一させた・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・彼女は精力的な、社会の下層から身をのし上げた、有名な、派手な、素晴らしく天才的な外科医を愛するようになった。アンネットは、その男が征服的な、革命的な、精力に満ちた社会的闘士でなかったら愛するようにはならなかったろう。その男も、アンネットがア・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・ ストリンドベリーは、偽善に対する彼のはげしい憤りと女性の動物性への侮蔑から、下層の男の野性を、征服者として登場させている。こういう実例は、日本の現実の中にも少くない。しかしローレンスは、人間としての女性をはずかしめる者としてではなく、・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・そして「ギャラップの調査員は大部分が女子で、しかも一定の割当人員のだれを選ぶかは調査員自身の決定にまかしてあるため、労働者や下層階級の人を避ける傾向があり、従って多く民主党支持である下層階級の意見が適当に代表されなかったのは、リテラリ・ダイ・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・困窮な下層小市民の家庭から出て、大学教育まで受け、時代の波に洗われて親が描いたような出世の道は辿らなかった一青年が、遂に自分の教養、知性のまやかしものであることに思い到って、出生した社会層の伝習とその粗野な表現に新しい人間的値うちを見出す心・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫