・・・ 最後に、非常な下層民で、生活の機能、人格価値などに対してはまるで無知なものが、熾烈な本能に身を任せて、乞食のように暮しながら無数な子供を産んで行く一群。一方それとは全く反対に、有り余る金はあり、子供の教育に責任を負うに充分な丈の健康と・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・スの不幸は、環境から性的なものを最も素朴な発動の形で男女の関係の間に知っていて、しかも彼女が人間としてより自由な、より豊富な情操の発展として愛を望むと、その方向には既成社会が、貧困、無智、過労とともに下層階級の女の肩に一際重くなげかけている・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・この小さい諷刺的な絵は、感覚的な効果をもって日本の下層階級生活の貧困と猥雑さとその日暮しの感じとを、傍観的に、だが強く表現していたのである。 私は「落花」を見ているうちに、池部氏がこの社会的感情を更に一歩すすめてその中にある発展的なモメ・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
・・・非常に古代美術愛好家風な、衒学的な、却ってそれが一種の野卑を感じさせる婦人の美の説明が我々を間誤つかせていると思うと、それはいつしか十九世紀のブルジョア勃興期にフランスで、そしてイギリスでも所謂下層階級の出身の美しい娘がどんな道行で没落に瀕・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・は、荒々しく切なく、そしてあてどのない日本の下層生活を、その荒々しさのままの筆力で描き出して、一種の感銘を与えた。その後、何ものにも保護されることのない無産の若い女性が、資本主義社会の中でその身にかぶらなければならないあらゆる混乱をきりぬけ・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・彼女等は下層インテリゲンチャで、新しい社会生活に対して闘争する勤労階級と日常接近する地位にあり、新しい社会への移行の時期に、どこでもソヴェトのために役員となったりして働いた。従って新しい社会を描くことも早かったのです。 革命前に於けるロ・・・ 宮本百合子 「婦人作家の「不振」とその社会的原因」
・・・文学の世界で、写実主義がおこってディッケンズがあらわれ、ロンドンの下層の生活の悲惨を描いたのがこの時代であった。サッカレイが「虚栄の市」「ペンデニス」「ニューコム一家」などで当時上流を占めた投資家貴族の生活を辛辣に描き出したのもこの時代であ・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・で母を書いている書きぶりは、五つで、もうあんまり母にかまわれなくなっている子供が、その母としてもその子としても避け難い力で、騒がしい無知な下層民の群の中に押しやられている姿として描いている。長い「家庭生活、家庭教育」で囲われたことのない、歩・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・ マクシム・ゴーリキイの生涯は、人類の歴史が今日の段階に於て輝やかしき実を結ばせた文学的大才能の一典型として、過去の世界文学史に現れたいかなる天才者に比べても、本質的に全く新しい意義をもっている。下層階級出身のゴーリキイが波瀾多いジクザ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ゲーテを従来の理解に従って天才者の一典型と見るそれとは本質的に異った意味で、人類の歴史が現段階に於て出現させた大才能の社会的完成の注目すべき一典型なのである。下層階級出身のゴーリキイが、そこに到るまでの道ゆきに於て、顕著な特色の一つが、今私・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
出典:青空文庫