・・・を初とし、彼に与せし三分の一の安助をば下界へ追い下し、「いんへるの」に堕せしめ給う。即安助高慢の科に依って、「じゃぼ」とて天狗と成りたるものなり。 破していわく、汝提宇子、この段を説く事、ひとえに自縄自縛なり、まず DS はいつくにも充・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・どうして下界のやつばらが真似ようたってできるものか」「ひどくいうな」「ほんのこったがわっしゃそれご存じのとおり、北廓を三年が間、金毘羅様に断ったというもんだ。ところが、なんのこたあない。肌守りを懸けて、夜中に土堤を通ろうじゃあないか・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・ ――今しがた、この女が、細道をすれ違った時、蕈に敷いた葉を残した笊を片手に、行く姿に、ふとその手鍋提げた下界の天女の俤を認めたのである。そぞろに声掛けて、「あの、蕈を、……三銭に売ったのか。」とはじめ聞いた。えんぶだごんの価値でも説く・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・ 浅草寺の天井の絵の天人が、蓮華の盥で、肌脱ぎの化粧をしながら、「こウ雲助どう、こんたア、きょう下界へでさっしゃるなら、京橋の仙女香を、とって来ておくんなんし、これサ乙女や、なによウふざけるのだ、きりきりきょうでえをだしておかねえか。」・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 太陽は、そのことには気づかずに、日暮れ方まで下界を照らしていました。二 幸福の島 ある国にあった話です。人々は、長い間の版で押したような生活に疲れていました。毎日同じようなことをして、朝になるとはね起きて、働き、食い、・・・ 小川未明 「明るき世界へ」
・・・あなたは昼間は、月のかわりに、ここからじっと下界を見物していなされたがいいと思います。」と、雲はいいました。 フットボールは、白い月のように、円い顔を雲の間から出して、下をながめていました。だれも、自分をまりだと思うものはありませんでし・・・ 小川未明 「あるまりの一生」
・・・ その星は、目の見えない、運命をつかさどる星でありました。 下界のことを、いつも忠実に見守っているやさしい星は、これに答えて、「汽車が、夜中通っています。」といいました。 ほんとうに、汽車ばかりは、どんな寒い晩にも、風の吹く・・・ 小川未明 「ある夜の星たちの話」
人間が、天国のようすを知りたいと思うように、天使の子供らはどうかして、下界の人間は、どんなような生活をしているか知りたいと思うのであります。 人間は、天国へいってみることはできませんが、天使は、人間の世界へ、降りてくることはできる・・・ 小川未明 「海からきた使い」
冬の晴れた日のことであります。太陽は、いつになく機嫌のいい顔を見せました。下界のどんなものでも、太陽のこの機嫌のいい顔を見たものは、みんな、気持ちがはればれとして喜ばないものはなかったのであります。 太陽は、だれに対しても差別なく・・・ 小川未明 「煙突と柳」
・・・ こう、木は思うと、また、いつか雲が、「山に育って、下界へいったものは、みんな死んでしまう。だから、霧と、あらしと、雪の中の暮らしを恨んではならない。なんといっても、それが貴くて、輝かしいのだから。」といったことが、愚かしく感じられ・・・ 小川未明 「しんぱくの話」
出典:青空文庫