-
・・・空腹で、看守がくれる煎大豆をたべて、水をのんだための下痢に苦しみながら手錠ははずされずに行った。十月十四日、十二年ぶりに東京の街をひとりで歩くことになった重吉は、一面の焼原で迷い、ひろ子が住んでいる弟の家のぐるりを二時間も迷ってやっと玄関に・・・
宮本百合子
「風知草」
-
・・・ここへ来るまでに、暑を侵して旅行をした宇平は留飲疝通に悩み、文吉も下痢して、食事が進まぬので、湯町で五十日の間保養した。大分体が好くなったと云って、中大洲を二日捜して、八幡浜に出ると、病後を押して歩いた宇平が、力抜けがして煩った。そこで五日・・・
森鴎外
「護持院原の敵討」