・・・を饒舌って、時々じろじろと下目に見越すのが、田舎漢だと侮るなと言う態度の、それが明かに窓から見透く。郵便局員貴下、御心安かれ、受取人の立田織次も、同国の平民である。 さて、局の石段を下りると、広々とした四辻に立った。「さあ、何処へ行・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・ 自から称して技師と云う。 で、衆を立たせて、使用法を弁ずる時は、こんな軽々しい態度のものではない。 下目づかいに、晃々と眼鏡を光らせ、額で睨んで、帽子を目深に、さも歴々が忍びの体。冷々然として落着き澄まして、咳さえ高うはせず、・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・ 殊にお掛屋の株を買って多年の心願の一端が協ってからは木剣、刺股、袖搦を玄関に飾って威儀堂々と構えて軒並の町家を下目に見ていた。世間並のお世辞上手な利口者なら町内の交際ぐらいは格別辛くも思わないはずだが、毎年の元旦に町名主の玄関で叩頭を・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・まさか町の奴等のように人を下目に見はすまい。みんなで少しずつ出し合ってくれたら、汽車賃が出来るに違いない。」 一群は丁度爪先上がりになっていた道を登って、丘の上に立ち留まった。そして目の下に見える低い地面を見下した。そこには軌道が二筋ず・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・―― 一太は口淋さを紛すため、舌を丸めて出したり、引こませたり、下目を使って赤くぽっちりと尖った自分の舌の先を見たりし始めた。母親は、縫物の手を休めず、「ほんとにねえ」と大きく嘆息したが、「お父つぁんさえいてくれれば、こうま・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・(ぐにも手紙を書こうかと思ったけれ共、両眼ともが、半分盲いて居る父親が、長い間、臭い汽車の中で不自由な躰をもんで、わざわざいやな話をききに来なければならないのを思うと、髭を物臭さに長く生やして、絶えず下目をしてボツボツ低く話す、哀れな父親の・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 娘は、自分の書斎の机の前に座って白いまま重ねられてある原稿紙をながめて下目をしたまま身動きもしなかった。 宮本百合子 「黒馬車」
・・・一九三九年の写真では、カロッサは猫のようなものを手に抱いて、一寸下目になって額に横じわをよせています。それはそうでしょう。このお話は何れ読んでから。 この前の手紙で向上心ということの色々の観察を話しかけましたが、庶民的な環境に育って色々・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・「エエそうですよ、まつげの長い人は下目をした時にきれいなもんです……」「この頃、貴方の書きたいと思う様な人がありまして?」「ありましたとも、大ありだったんですけど……ほんとうに思い出しても腹が立っちゃあうんですよ」「逃げられ・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・酒井家からは目附、下目附、足軽小頭に足軽を添えて、乗物に乗った二人と徒歩の文吉とを警固した。三人が筒井政憲の直の取調を受けて下がったのは戌の下刻であった。 十六日には筒井から再度の呼出が来た。酉の下刻に与力仁杉八右衛門の取調を受けて、口・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫