・・・ 面白やどの橋からも秋の不二 三島神社に詣でて昔し千句の連歌ありしことなど思い出だせば有り難さ身に入みて神殿の前に跪きしばし祈念をぞこらしける。 ぬかづけばひよ鳥なくやどこでやら 三島の旅舎に入りて一夜の宿りを請えば・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・ ――○―― 人が、物を観る時に、唯一不二な心に成って、その対象に対すると云う事は大切でございましょう。けれども此は、没我と申せましょうか。元より無我と云う字の解釈にも依りますが、字書通り、我見なきこと、我意なきこ・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・「宇宙に対する完全なる知と、神に対する完全なる愛とは同一不二である」 という言葉を読む。まったくそうであろう。そうであろうという心持を一層強められる―― そうあるべきものだが、自分には分らない。自分のものになるものは、まだあまり・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
芭蕉の句で忘られないのがいくつかある。あらたうと青葉若葉の日の光いざゆかん雪見にころぶところまで霧時雨不二を見ぬ日ぞおもしろき それから又別な心の境地として、初しぐれ猿も小蓑をほ・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・これまでは宗玄をはじめとして、既西堂、金両堂、天授庵、聴松院、不二庵等の僧侶が勤行をしていたのである。さて五月六日になったが、まだ殉死する人がぽつぽつある。殉死する本人や親兄弟妻子は言うまでもなく、なんの由縁もないものでも、京都から来るお針・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・悠々たる観の世界は否定の否定の立場として自他不二の境に我々を誘い込むのである。 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」
出典:青空文庫