・・・云々という言葉の内容自身が、人間というものは独創的でなくっちゃいかん、不和雷同するな、人の言ったことや、したことの真似をすると嗤われるぞ――という、いわば独創の宣伝みたいな意味を含んでおります。ところがですね、「猫も杓子」も云々というような・・・ 織田作之助 「猫と杓子について」
・・・しっくりゆかない。不和である。お互い心理の読みあいに火花を散らして戦っている。そうしてお互い、どうしても釈然と笑いあうことができないのである。 はじめこの家にやってきたころは、まだ子供で、地べたの蟻を不審そうに観察したり、蝦蟇を恐れて悲・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・凡そ婦人の心さまの悪しき病は不和不順なる事と怒り恨む事と謗る事と妬む事と智恵浅き事となり、此五の病は十人に七、八は必ずあり、婦人の男子に及ばざる処なりと宣告したれども、此宣告果して中るや中らざるや遽に信じ難し。言行和らぎて温順なるは婦人の特・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・これに堪えずして手を出だせば、ついに双方の気配を損じ、国内に不和を生ずることあらん。また国のために害ありというべし。左にその一例をしめさん。 今の民権論者は、しきりに政府に向いて不平を訴うるが如くなるは何ぞや。政府は、果して論者と思想の・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・世間或は之を見て婦人の嫉妬など言う者もあらんなれども、凡俗の評論取るに足らず、男子の獣行を恣にせしむるは男子その者の罪に止まらず、延いて一家の不和不味と為り、兄弟姉妹相互の隔意と為り、其獣行翁の死後には単に子孫に病質を遺して其身体を虚弱なら・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ およそ古今世界に親子不和といい兄弟姉妹相争うというが如き不祥の沙汰少なからずして、当局者の罪に相違はなけれども、一歩を進めて事の原因を尋ぬれば、その父母たる者が夫婦の関係を等閑にしたるにあり。なお進んで吟味を遠くすれば、その父母の父母・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ところが、その時代の政略にしたがって実父はその娘の良人と不和に到ったら娘を強いてもとり戻して、さらに二度目の良人であるその城主に嫁しずけた。不幸にもまたここに実父の側との戦いがはじまって、良人の軍は敗れたので、夫人の実父は前例どおり、また夫・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・ 夫婦の不和や家庭破壊の問題がおこったとき、どんな幼稚な身の上相談にしろ、先ずその原因を冷静につきつめて、と答えている。あのことも、このことも敗戦がわるい、というならば、どうしてその敗戦などという現象がおこったのか。そもそもの原因までさ・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・日曜日ごとにゴルフとまでは行かないプチブルらしくベビー・ゴルフというものへ、半ズボンはいて行くO氏のお伴をしなければ、不和を生じるという場合、どうしてK子はO氏との恋愛をよろこび、共に発育して行く人間らしい楽しみを感じることが出来ましょう。・・・ 宮本百合子 「ゴルフ・パンツははいていまい」
・・・ところが、彼女が八つの年、ポルトヴァの貴族である父親と、やはり古い貴族の娘である母との間に不和が生じて、別居することになった。母はマリア、叔母、ジナという従姉、祖父、「天使のように比類ない」家庭医ルシアン・ワリツキイ、侍女などを連れ、ロシア・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
出典:青空文庫