・・・そうして、不抜の高き塔を打ちたて、その塔をして旅人にむかい百年のちまで、「ここに男ありて、――」と必ず必ず物語らせるがよい。私の今宵のこの言葉を、君、このまま素直に受けたまえ。ダス・ゲマイネに就いて いまより、まる二年ほどま・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・文学の本質は、くりかえして云うが、その芸術の魅力によって、人間の心持を高める一つの確固不抜な要素をもっているものであり、少くとも文学として或る作品を手にとりあげた時、大衆は、自分の心持が人間として高められることを自然に求めている。勿論、直接・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・の内での生活は、特に老パルチザンである指導者アントーヌィッチの洞察と生活の意義に対する目標の確固不抜性、人生に対する愛と評価との態度は作者の心に湧いている生きることのよろこびとともに鳴って描かれている。後篇の前半を占めるこの部分は地球の到る・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・そしてわたしたちを活かし、わたしたちの血液を運び人生に不抜の根柢を与えてゆく、その心臓のようなものであろうと思います。生きてゆくことがいつも自分にわかっている。何をしようとしているかということが自分にわかっている。このことをすればそれはどう・・・ 宮本百合子 「自覚について」
・・・ 彼の死後九十年近くも経った今日、バルザックに帰れ、と云い出した一部のプロレタリア作家が、各自のバルザックの推戴の不抜なよりどころとしたのは主としてマルクスやエンゲルスが断片的な文句でその労作のところどころに示している、バルザックの作品・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・志賀直哉氏の人為及び芸術の魔法の輪を破るには、志賀氏の芸術の一見不抜なリアリティーが、広い風波たかき今日の日本の現実の関係の中で、実際はどういう居り場処を占めているものであるか、何の上にあって、しかくあり得ているかを看破しなければならないの・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・その一度の生命は最も人類的に、最も謙遜なる確乎不抜さで人間的に生き貫かれなければならないのである。〔一九三七年五月〕 宮本百合子 「若き時代の道」
・・・そして、この人間らしい努力は、だんだん空想的な方法から科学的な理解と方法とを発見して来て、今日、私どもの将来に幸福建設の可能を示すものとなって来た歴史の、不抜な歩みを物語っている書物です。〔一九四六年五月〕・・・ 宮本百合子 「私の愛読書」
・・・この蓋世不抜の一代の英気は、またナポレオンの腹の田虫をいつまでも癒す暇を与えなかった。そうして彼の田虫は彼の腹へ癌のようにますます深刻に根を張っていった。この腹に田虫を繁茂させながら、なおかつヨーロッパの天地を攪乱させているナポレオンの姿を・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫