・・・が、汎濫した欧化の洪水が文化的に不毛の瘠土に注いで肥饒の美田となり、新たに植樹した文明の苗木が成長して美果を結んだのは争えない。少くも今日の新らしい文芸美術の勃興は当時の欧化熱に負う処があった。 井侯以後、羹に懲りて膾を吹く国粋主義は代・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・しかしてその三分の一以上が不毛の地であったのであります。面積一万五千平方マイルのデンマークにとりましては三千平方マイルの曠野は過大の廃物であります。これを化して良田沃野となして、外に失いしところのものを内にありて償わんとするのがそれがダルガ・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・カントのアプリオリの如き不毛の主知的観念に知識の妥当性があるのではない。具体的、直接なる体験は「生」の進展して止まぬ発動である。彼はいった。「ロックや、ヒュームやカントが作りあげた認識主観の脈管には現実赤い血潮が通っているのでなくて、単に思・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・これに反して今時の大多数の絵は、最初には自分の本当の感じから出発するとしても、甚だしいソフィスチケーションの迂路を経由して偶然の導くままに思わぬ効果に巡り会うことを目的にして盲捜りに不毛の曠野を彷徨しているような気がする。青く感じたものは赤・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・ 植物界は動物界を支配する。不毛の地に最初の草の種が芽を出すと、それが昆虫を呼び、昆虫が鳥を呼び、その鳥の糞粒が新しい植物の種子を輸入する、そこにいろいろの獣類が移住を始めて次第に一つの「社会」が現出する。日本における植物界の多様性はま・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・この氷河が消失して、従って新疆地方に灌漑する川々の水量が少なくなり、そのために土壌がかわき上がって今のような不毛の地になったらしい。この地方には高さ五百メートルほどのなまなましい断層の痕もあるそうである。こんな地変のために地盤が傾動すれば河・・・ 寺田寅彦 「ロプ・ノールその他」
・・・社会文化が生じて世紀を閲している今日では客観的な意味で、健全な恋愛のためには不毛地帯と呼ぶべきような地域が生じているからである。〔一九三八年十一月〕 宮本百合子 「成長意慾としての恋愛」
出典:青空文庫