・・・男じみたいかり肩が一層石女を感じさせるようだと、見ていると、突然女は立ちすくんだ。 見ると隣室の男が橋を渡って来るのだった。向うでも見つけた。そして、いきなりくるりと身をひるがえして、逃げるように立ち去ってしまった。ひどくこせこせした歩・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・が十八の時来たんだそうだけれ共その時は女の方で虫が好かないで離縁して仕舞い二十二の時二度目のが来たけれ共石女だと云って自分から出て行ったんだと云った。 それからその男にひどい目に会わされたんで婿なんか取るもんじゃあないとあきらめた様にし・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・その幅広な視線で、元気な石女の丸まっちい女房を見下しながら、「それは分っているさ……だがね」「だがね、どうなのさ……」「……ふむ!」「いやだよこの人ったら……」 女房は、やがて、「でもいい装をしてなすったねえ」と・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・にも複雑なことだから、こんな不用意な疎雑なことで完全に説明されるとは思わないが、兎に角、女性の芸術的作品に、晴々強く箇性的な男性への愛重が現れ難いのは、公平に云って女が救いようのない偽善者だからでも、石女だからでもないと思われる。何時も、男・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
出典:青空文庫