・・・のみならず叔母が気をつけていると、その後も看護婦の所置ぶりには、不親切な所がいろいろある。現に今朝なぞも病人にはかまわず、一時間もお化粧にかかっていた。………「いくら商売柄だって、それじゃお前、あんまりじゃないか。だから私の量見じゃ、取・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・人事僅かに至らぬところあるが為に、幾百千の人が、一通りならぬ苦しみをすることを思うと、かくのごとき実務的の仕事に、ただ形ばかりの仕事をして、平気な人の不親切を嘆息せぬ訳にゆかないのである。 自分は三か所の水口を検して家に帰った。水は三か・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・相手は自分の少し変なことを感じているに違いないとも思う。不親切ではないがそのことを言うのが彼自身怖ろしいので言えずにいるのじゃないかなど思う。しかし、自分はどこか変じゃないか? などこちらから聞けない気がした。「そう言えば変だ」など言われる・・・ 梶井基次郎 「泥濘」
・・・老人や子供達にはケンケンして不親切であったが、清三に金を送りに行った時だけは、何故か為吉にも割合親切だった。 両人は、それぞれ田舎から持って来た手提げ籠を膝の上にのせていた。「そりゃ、下へ置いとけゃえい。」 自動車に乗ると清三は・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・いう男は、凡庸人物というよりもやや奸悪の方の人物でありますが、まさに馬琴の同時代に沢山生存して居たところの人物でありまして、それらの一種の色男がり、器用がり、人の機嫌を取ることが上手で、そして腹の中は不親切で、正直質朴な人を侮蔑して、自分は・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・というような頗る不親切な記述があったばかりで、他はどの頁をひっくり返してみても、地理的なことはなんにも書かれてありません。実にぶっきらぼうな態度であります。作者が肉体的に疲労しているときの描写は必ず人を叱りつけるような、場合によっては、怒鳴・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・そんな大事なことを一言も僕に教えてくれなかったというのは不親切だ。僕は、こんどの世話はごめんこうむる。僕はもう小坂さんの家へは顔出しできない。君がきょう行くんだったら、ひとりで行けよ。僕はもう、いやだ。」 ひとは、恥ずかしくて身の置きど・・・ 太宰治 「佳日」
・・・ 私は、不親切な医者かも知れません。私は、私の作品を、これは傑作だなんて、言ったことは、ありません。悪作だ、と言ったこともありません。それは、傑作でもなければ、悪作でもないのが、わかっているからです。少し、いいほうかも知れない。けれども・・・ 太宰治 「正直ノオト」
・・・小さい時から、醜い醜いと言われて育った。不親切で、気がきかない。それに、下品にがぶがぶ大酒を呑む。女に、好かれる筈は無いのである。私には、それをまた、少し自慢にしているようなところも在るのである。私は、女には好かれたくは無いと思っている。あ・・・ 太宰治 「俗天使」
・・・キャメラが一町とは動いていない場合に、面画は何千里の遠方にあるか想像もできないようなひとり合点の編集ぶりは不親切である。 むだなようでもこうした実写映画では観客の頭の中へ空間的時間的な橋をかけながら進行するように希望したいのである。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
出典:青空文庫