・・・僕にははっきりと言えないけれど、……電気の両極に似ているのかな。何しろ反対なものを一しょに持っている」 そこへ僕等を驚かしたのは烈しい飛行機の響きだった。僕は思わず空を見上げ、松の梢に触れないばかりに舞い上った飛行機を発見した。それは翼・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・これまで彼は父母の意に従って高等学校に入るべき準備をしていた時でも、三角に対する冷淡は画に対する熱心といつも両極をなしていた。さらにさかのぼって、彼の小学校にある時すら彼は画のみを好んでおったのを自分は知っている。この少年に向かって父母は医・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・永久の望み、永久の死、人はこの両極に呼吸す。永久の死なき者に永久の別れありや。されど死という一字は人容易に近づきて深く感ずるを得ずといえども、別れの一字は人々の日々親しく感ずるがゆえに、もし人、この一字に永久の二字を加えて静かに思いきわめな・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・正と負の両極の間に振動している。「善行日」ばかりを奨励するのも考え物ではあるまいか。少なくとも「悪行日」をこれと並行錯雑させて設けてみるのも一つの案ではあるまいか。昔の為政家は実際そういう事をしたもののように見える。 しかし私のこの・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ロマンチシズムとクラシシズムの両極の間に世界が回転する。 五「物理学はエキザクトサイエンスである。」この言葉ほどひどく誤解されてそしてそのおかげでエキザクトな物理学の進歩を阻害している言葉はない。「量的に」この言葉も・・・ 寺田寅彦 「人の言葉――自分の言葉」
・・・だいたいにおいて春の花のほがらかさと、秋の月の清らかさとを正と負、陽と陰の両極として対立させたものであるに相違ない。音楽で言わば長音階と短音階との対立を連想させるものもある。もちろん定座には必ず同季の句が別に二句以上結合して三協和音のごとき・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・すなわち冠を戴く頭は安きひまなしと云うのが沙翁の句で、高貴の身に生れたる不幸を悲しんで、両極の中、上下の間に世を送りたく思うは帝王の習いなりと云うのがデフォーの句であります。無論前者は韻語の一行で、後者は長い散文小説中の一句であるから、前後・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・現実には肯定と否定との両極しかない。現代ではそれがはっきりしているし、そうなければならないんだ。」 ベズィメンスキーの、こういう固定した対立の理論の柱は、理論家ベスパーロフのところからもって来られたものであった。ベスパーロフは、文学理論・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・p.159 ドストイェフスキーは運命に刻印された両極性という点で、まさにこの点でのみ理解される、○彼は自らの対立の狂信者である。○彼の二重性格者たる彼の生存の根本意志を象徴的に示すものとしての賭博ルーレットの赤と黒○「い・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・この画は場中最も色の薄いもので、この点では竜子氏の画と両極をなしているが、しかし日本画として新しい生面を開こうとしていることは、同一だと言ってよかろう。『いでゆ』のねらう所は恐らく温泉のとろけるように陶然とした心持ちであろう。清らかに澄んだ・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫