・・・どこれを禁制として、政権より見れば、学者はいわゆる長袖の身分たらんこと、これまた我が輩の祈るところにして、これを要するに、学問をもって政事の針路に干渉せず、政事をもって学問の方向を妨げず、政事と学権と両立して、両ながら、その処を得せしめなば・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・天下一日も政治なかるべからず、人間一日も文学なかるべからず、これは彼を助け、彼はこれを助け、両様並び行われて相戻らず、たがいに依頼して事をなすといえども、その地位はおのずから両立の勢をなせるものなれば、政治の囲範に文学を繋ぐべからず。これす・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・最も憂うべき所にして、ある人の説に十全の正直は十全の親愛と両立すべからずといいしも、この辺の事情を極言したるものならん。古今の道徳論者が世人の薄徳を歎き、未だ誠に至らずなど言うは、その言不分明にして徳の公私を分かたずといえども、意のある所を・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・この人の左まわり右へは、さき頃のラジオ討論会、「宗教と科学は両立するか」の時の話し方で聴取者の腹の底までしみ渡りました。渡辺氏は、宗教が、たとえば宗教裁判や戦争挑発によって過去に人類的罪悪を犯したのは――反科学的であったのは、宗教が宗教の外・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ところが、職業の種類で結婚のあいてにめぐり合うことがむずかしくなったり、結婚生活と職業とが労力的に両立しがたかったりして、そういう困難にぶつかると、女のひとはそれを我々の今日生きている社会のおくれた形から蒙っている男女の損失として見るより先・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・女で、職業や仕事をもっている人のとき、私たちは、どうせ楽なのではないから、とこの現実の裡で家庭と仕事を両立させて行こうとする女の困難さをあからさまに見た上で、大変だろうがという反面に、でもね、と認めるものがあったのである。 結婚の幸福と・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・そして、商業主義と文学の修業とは両立しがたい本質の差をもっているから、金にならなくても、文学の勉強はやめられない意味で、同人雑誌への関心がたかまったことも、たしかに「わるくない現象」である。『新日本文学』の編集委員会は、原稿料の極端にやすい・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・ 現代のすべての婦人は、家庭と職業を両立させたいという根本の希望で目前の苦しみや不便に耐えながら闘っていると思います。そして、男の人たちの中にもその意味を理解して、できるかぎり「新しい夫」になろうとする頼もしい人もでています。時間のかか・・・ 宮本百合子 「質問へのお答え」
・・・しかしながらこの二つの要素への意識はどちらかといえば素朴な両立の形で存在していて、その意識は文章の独特な人間的文学的ポーズを感じさせる。更に私たちの注意を惹かれることは、火野の文章のあらゆる場合、戦場の異常性というものが抑えられて描かれてい・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・結婚と仕事とは、女性の幸福にとって両立し得るものだろうかという疑問をもふくめて。 ここに集められた十七歳の世代の人たちの記録をみると、そんなところにも、何とも云えず生々とした変化がおこっているのを感じる。「一つの思い出」にワヤワヤと響い・・・ 宮本百合子 「小さい婦人たちの発言について」
出典:青空文庫