・・・その現実に対する角度は、芭蕉のように身を捨てて天地の間に感覚を研ぎすました芸術家の生涯にある鋭い直角的なものではなく、謂わば芭蕉を味うその境地を自ら味うとでも云うべき、二重性、並行性があり、それは、藤村の文章の独特な持ち味である一種の思い入・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・ 併行して、日本の若き人道主義たち、「白樺」の人々は、彼らの青春の祝福されるべき反逆性の頭上に一撃を加えられた。当時大逆事件と呼ばれたテロリストのまったく小規模な天皇制への反抗があらわれ、幸徳秋水などが死刑に処せられた。自由民権を、欽定・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・シャパロフと並行に。面白い仕事です。ガスケル夫人は、シャロッテ・ブロンテの伝記を書いたが、其はイギリスの文学的業績中伝記文学の傑作だそうです。 二十二日の夜中。 雨が降っている。疲れて、しかし十分働いた満足の感じ。汗が体に滲み出して・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・文学・美術・音楽等についての本は大体並行して一冊ずつよめるようにいれてゆきましょう。その他の種類で、あなたが実際的知識を主張していらっしゃるのは当然ではあるが私は深く満足したし、自分の考えと同じ考えを知って嬉しゅうございました。哲学について・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・言論・出版の自由をおびやかす用紙割当庁法案と並行するラジオ法案がより広く民衆の声を反映する性格をもっていないことはあまりに明瞭である。政府は一方において労働法の改悪、公務員法案の改正、軽犯罪法の制定、教育の民主化をあやうくする教育委員会法案・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・しかも日本には日本文学の伝統として、近代文学の確立と同時に文学者は一般官吏、実業家、軍人等の社会活動と全く切り離された別個の道或は並行の道或は対蹠をなす道を歩かざるを得ない事情に置かれて来たという事情がある。 周知の如く近代国家としての・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・プロレタリア文学の画然たる主流に流れ入ることはしないが、ブルジョア文学の領域にありつつ進歩性をもつ作家を、パプツチキと見た考えかたである。併行して流れるものとして考えられた。今日、日本の文学が、日本の民主主義の現実と、その特徴に立つ独自の機・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・譬えて言えば、二人は最初遠く離れた並行線のように生活していたのに、一時その距離が逼り近づいて来て、今又近く離れた並行線のように生活することになったのである。 F君はドイツ語の教師をして暮す。私は役人をして、旁フランス語の稽古をして暮す。・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・こう思って壁と併行にそろそろ歩き出した。そして一番暗い隅の所へ近寄って来た時、やっと長椅子の空場所があった。そこへがっかりして腰を下した。じっと坐って、遠慮して足を伸ばそうともしないでいる。なんでも自分の腰を据えた右にも左にも人が寝ているら・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・すなわち情緒表現の道と並行して、純粋に写実に努力し、これまで閑却していたさまざまの自然の美を捕えるのである。宋画のある者に見られるような根強い写実は、決して情趣表現の動機から出たものではない。氏を浪漫的な弱さから連れ出すものは、おそらくこれ・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫