・・・と、この禁猟区に、はじめてみんなを導いた、りこうながんがいいました。「そんなら、俺たちは、おじいさんに案内を頼んで、出かけることにしようじゃないか。」と、中でも、もっとも野生を有していた、Kがんが、さっそくこの説に賛成しました。「幾・・・ 小川未明 「がん」
・・・ ただ、小鳥だけが、まれにきて枝にとまって翼を休めました。中でも渡り鳥は、旅の鳥でいろいろの話を知っていました。街の話もしてくれれば、港の話もしてくれました。もっときけばなんでも教えてくれるのであったが、松の木は、自らは経験のないことで・・・ 小川未明 「曠野」
・・・ 中でも一ばん悲さんだったのは、本所の被服しょうあとへにげこんだ人たちです。そこは、ともかく何万坪という広い構内ですから、本所かいわいの人たちは、だれもそこなら安全だと思って、どんどん荷物をはこびこみました。夜になってからは、いよいよ多・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・最後に、ひとつ、これは中でも傑出しています。「地震」KLEIST チリー王国の首府サンチャゴに、千六百四十七年の大地震将に起らんとするおり、囹圄の柱に倚りて立てる一少年あり。名をゼロニモ・ルジエラと云いて、西班牙の産なるが、今や此世・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・その瞬間に自分の頭の中のどこかのすみを他の同窓のだれかれの影が通り過ぎてすぐ消えたのかもしれない、そうして中でもいちばん早くなくなったS君の記憶が多少特別なアクセントをもって印銘された、その余響のようなものがこの夢のS君出現の動機になったの・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・瀬戸内海にはこのような場所が沢山にあります。中でも早吸の瀬戸などは神武天皇が東征の時に御通りになったというので、歴史で名高くその名も潮流の早い事を示していて大変に面白い名でありますが、今ではただ豊後海峡と呼ばれています。伊予の西の端に指のよ・・・ 寺田寅彦 「瀬戸内海の潮と潮流」
「当世物は尽くし」で「安いもの」を列挙するとしたら、その筆頭にあげられるべきものの一つは陸地測量部の地図、中でも五万分一地形図などであろう。一枚の代価十三銭であるが、その一枚からわれわれが学べば学び得らるる有用な知識は到底金・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・ 電車の中でも人はチューインガムを噛んでいた。そうして電車の床の上へ平気で唾を吐いていた。ヨーロッパでは見たことのない現象である。 ワシントンで生れて始めての「暑さの波」に襲われた。これについては前に書いたことがあるから略する。ワシ・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・ そうした温帯の中でも日本はまた他の国と比べていろいろな特異性をもっている。そのおもな原因は日本が大陸の周縁であると同時にまた環海の島嶼であるという事実に帰することができるようである。もっともこの点では英国諸島はきわめて類似の位置にある・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ みんなはあっけにとられてがやがや家に帰って見ましたら、粟はちゃんと納屋に戻っていました。そこでみんなは、笑って粟もちをこしらえて、四つの森に持って行きました。 中でもぬすと森には、いちばんたくさん持って行きました。その代り少し砂が・・・ 宮沢賢治 「狼森と笊森、盗森」
出典:青空文庫