・・・ちょっと見たところでは別に堂々とした様子などはない。中背で、肥っていて、がっしりしている。四十三にしてはふけて見える。皮膚は蒼白に黄味を帯び、髪は黒に灰色交じりの梳らない団塊である。額には皺、眼のまわりには疲労の線条を印している。しかし眼そ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・に乗って大学通りを走っている、でっぷり太った中背の男の説明から始る。 初めの三行目から作者は自分の言葉で服装について一部のパリ人の抱いている常識を非難しながら、その男がやっととある玄関の前で馬車を下りると、もう直ぐそこでとびかかるように・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・中肉中背で、可哀らしい円顔をしている。銀杏返しに結って、体中で外にない赤い色をしている六分珠の金釵を挿した、たっぷりある髪の、鬢のおくれ毛が、俯向いている片頬に掛かっている。好い女ではあるが、どこと云って鋭い、際立った線もなく、凄いような処・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫