・・・何が社会的に善事であるかを知らずして実行することは出来ず、行為の主体が自己である以上は自己と社会との関係を究めないわけにはいかないからである。それ故に倫理学の研究は単に必要であるというだけでなく、真摯な人間である以上、境遇が許す限りは研究せ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・それで考え方によっては、それらの音をそれぞれの音として成立せしめる主体となるものは基音でなくてむしろ高次倍音また形成音だとも言われはしないかと思う。 こういう考えが妥当であるかないかを決するには、次のような実験をやってみればよいと思われ・・・ 寺田寅彦 「疑問と空想」
・・・時々大きなやつのしっぽだけを持って来た。主体を分離した尾部は独立の生命を持つもののように振動するのである。私は見つけ次第に猫を引っ捕えて無理に口からもぎ取って、再び猫に見つからないように始末をした。せっかくの獲物を取られた猫はしばらくは畳の・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・ 我国の国体の精華が右の如くなるを以て、世界的世界形成主義とは、我国家の主体性を失うことではない。これこそ己を空うして他を包む我国特有の主体的原理である。之によって立つことは、何処までも我国体の精華を世界に発揮することである。今日の世界・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・無限なる属性の基体としての神は、コンポッシブルの世界の主体、事の世界の主体でなければならない。真にそれ自身によってあり、それ自身によって理解するものは、事が事自身を限定する、純粋事実というものでなければならない。純粋行為というも、既に二次的・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・あるいは、侵略主義の主体としての民族主義思想であろう。 国際裁判によって有罪とされたそういう思想は言論の自由だからとりしまれないときくと、わたしたちのおどろきは深く大きい。警察でとりしまりたいとおもってとりしまれなかったどんなストライキ・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ 対象と主体との相異対立がはっきり認識され、それを積極的に批評し、評価結論を下したところに、諷刺が現れる。対象を批評するときには、当然暴露がついて来る。 しかも、暴露の材料一々の具体性が分析される。従って対象と主体の置かれている一定・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・誘惑される主体さえ無ければ。 どっちが先に死の問題を持ち出したか、と云うことは、前の問題よりは重大だ。が、これとてもつきつめれば、何でもない。生活力の旺盛なものに、誰が死の話を持ちかける! 自分にとって、何より大切な、心を掴むことは・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・今は死ぬということについては、主体的に自分から死ぬということについては、違った考え方をもつことになったかもしれないが、殺すということについては戦争中の殺すことに平気な傾向を皆もっています。戦争は殺すということについて英雄心をもたせ、優越感を・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
・・・作者は忠直卿とともに、人間関係の真率、偽りなさ、まことの現実を求める人間の情熱を辿ってはいるが、虚偽を生む社会関係を主体的に忠直卿から判断させてはいない。被動的に隠居仰せつけられその外力によって、社会関係の一部が変えられる迄は、さながら、自・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
出典:青空文庫