・・・ ことに私の上来のいましめはイデアリストに現実的心得を説くよりも、むしろリアリストに理想的純情を鼓吹することをもって主眼としてきたものだけに、現実生活においてなるべく傷を受けないように損をしないようにという忠告は乏しいのだ。実際イデアリ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・浄土真宗の信仰などはそれを主眼とするのである、信仰というものをただ上品な、よそ行きのものと思ってはならない。お寺の中で仏像を拝むことと考えては違う。念仏の心が裏打ちしていれば、自由競争も、戦術も、おのずと相違してくるのである。この外側からは・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・自然主義文学に共通の特色をなす、全体的なことを書きながらも、その中の個の追求が、こゝでも主眼となっている。幾分、地主的匂いがたゞよっている。 一兵卒の死の原因にしても、長途の行軍から持病の脚気が昂進したという程度で、それ以上、その原因を・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・会は如何かというと、非常に厳格で少しのあやまちも許さぬというようになり、少しく申訳がなければ坊主となり切腹するという感激主義であった、即ち社会の本能からそういうことになったもので、大体よりこれが日本の主眼とする所でありました、それが明治にな・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・けれどもまず諸君よりもそんな方面に余計頭を使う余裕のある境遇におりますから、こういう機会を利用して自分の思ったところだけをあなた方に聞いていただこうというのが主眼なのです。どうせあなた方も私も日本人で、現代に生れたもので、過去の人間でも未来・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ところが写生文家はそんな事を主眼としない。のみならず極端に行くと力めて筋を抜いてまでその態度を明かにしようとする。 かくのごとき態度は全く俳句から脱化して来たものである。泰西の潮流に漂うて、横浜へ到着した輸入品ではない。浅薄なる余の知る・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・きるかという訳と、かく応用された言葉の表現する道徳が日本の過去現在に興味ある陰影を投げているという事と、それからその陰影がどういう具合に未来に放射されるであろうかという予想と――まずこれらが私の演題の主眼な点なのであります。――明治四十・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・にて、ただこの記憶力のみを発育する時は、他の推理の力、想像の働等はおのずから退縮せざるをえざるがゆえに、文字を教うるは、決してこれを有害のものというべからずといえども、ただこの一方に偏してこれを教育の主眼とする時は、人心の釣合を失して、いた・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・が主眼なり。さるを第三句に主眼を置きしゆえ結末弱くなりて振わず。「怒り落つる滝」などと結ぶが善し。島崎土夫主の軍人の中にあるに妹が手にかはる甲の袖まくら寝られぬ耳に聞くや夜嵐 上三句重く下二句軽く、瓢を倒にしたる・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・一句の主眼が一は過去の人事にあり、一は未来の人事にあるは二句同一なり、その主眼なる人事が人事中の複雑なるものなることも二句同一なり。かくのごときものは古往今来他にその例を見ず。理想的美 俳句の美あるいは分って実験的、理想的の・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫