・・・夕靄の中に暮れて行く外濠の景色を見尽して、内幸町から別の電車に乗換えた後も絶えず窓の外に眼を注いでいた。特徴のないしかも乱雑な人家つづきの街が突然尽きて、あたりが真暗になったかと思うと、自分は直様窓の外に縦横に入り乱れて立っている太い樹木を・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・川の底を通って、それから汽車を乗換えて、いわゆる「ウエスト・エンド」辺に行くのだ。停車場まで着て十銭払って「リフト」へ乗った。連が三四人ある。駅夫が入口をしめて「リフト」の縄をウンと引くと「リフト」がグーッとさがる、それで地面の下へ抜け出す・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ただ御飯を食べるだけでも詰らないからと私共は或る相談をしたのだ。乗り換えて浅草近くなると網野さんは、「ああこの辺へ来るのは久しぶりで何だか嬉しい」と云った。それをきき私共は安心し一層愉快を感じた。雷門で下車。仲店の角をつっきるとき私・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・自分は西国まで往くことは出来ぬが、諸国の船頭を知っているから、船に載せて出て、西国へ往く舟に乗り換えさせることが出来る。あすの朝は早速船に載せて出ようと、大夫は事もなげに言った。 夜が明けかかると、大夫は主従四人をせき立てて家を出た。そ・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫